都内のある証券会社には、自社の資産を運用する部署があった。
資産運用部署は理想郷を意味する「アルカディア」と呼ばれていた。
「アルカディア」の責任者は女性で、無敗のクイーンと呼ばれていた。
無敗のクイーンは、無敗の個人投資家たちの売買を参考に資産運用していた。
元号が変って初めての夏。
早朝のアルカディアで、無敗のクイーンはある男の買い注文を待っていた。
待っていたのは無敗の個人投資家の1人、無敗のジャックの買い注文だった。
無敗のクイーンは、無敗のジャックとの昨年末の会話を思い返した。
休日の河川敷、無敗のジャックは暇そうに寝そべっていた。
たわいもない会話の中で、奴がいった。
「今の相場は、3年前の相場にそっくりだよな」
それ以上、奴は何もいわなかったが、奴の考えていることはわかる。
奴は3年前と同じ相場で、最も効率よく儲けようとするはずだ。
3年前の相場は、2月、6月、8月に底を打った。
3年前の奴は、2月、6月、8月に的確に買い向かった。
この8月も、おそらく奴は買い向かうはずだ、だが、いつ何を買うのか。
そのとき、システムのアラートが無敗の個人投資家の買い注文を知らせた。
無敗のクイーンが確認すると、無敗のジャックの買い注文、Jアラートだった。
Jアラートは、ジャックが保有する株の買い増しだった。
現在、ジャックが保有する2,000株を3,000株にする買い注文だった。
確か、この株は年初来安値で推移している。
いつも通りの割安株狙いか、芸のない奴だ、無敗のクイーンは笑みを浮かべた。
無敗のクイーンは、ジャックに追随すべく買い注文を入れようとした。
そのとき、システムのアラートが再び、無敗の個人投資家の買い注文を知らせた。
無敗のクイーンが確認すると、またしてもジャックの買い注文、Jアラートだった。
Jアラートは、ジャックが保有する別の株の買い増しだった。
現在、ジャックが保有する20,000株を30,000株にする買い注文だった。
奴が同日に2銘柄の買い注文を入れるのは初めてだ、無敗のクイーンは思った。
奴が同日に2銘柄の買い注文を入れたのには、何か理由があるはずだ。
無敗のクイーンは、3年前の2銘柄の株価データを調べて気づいた。
3年前の8月、2銘柄の配当利回りは5%を超えていた。
3年ぶりに、2銘柄そろって配当利回りが5%を超えた日が昨日だったことに。

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