第264話 或る組織の誕生(後編)
神尾司令官と一緒に御用商人の張(チャン)と面談した数ヵ月後。
結城中佐を青島守備軍司令部から、日本の軍事教練学校へ転属させる人事が発令された。
着任初日のこと、結城中佐は軍事教練学校の応接室で、新しい上官を待っていた。
しばらくすると、静かに応接室のドアが開き、1人の男が入ってきた。
入ってきた男を見た瞬間、結城中佐は驚きのあまり、目を見張った。
入ってきた男は、青島守備軍司令部の神尾司令官だった。
「か、神尾司令官、なぜ、ここに」、結城中佐が立ち上がりながらいう。
入ってきた男は、不敵な笑みを浮かべるといった。
「青島守備軍司令部にいる神尾の双子の兄、予備役の神尾だ」
結城中佐に「楽にしろ」といいながら、神尾は向かいのソファに腰掛けた。
結城中佐がソファに座ると、神尾はいった。
「弟から君の評判は聞いている。情報収集に秀でた極めて優秀な男だとね」
「恐れ入ります」、結城中佐がいう。
「弟から聞いていると思うが、日本を守り続けることができる組織が必要だ。
貴様には、我々と同じように組織を作ることができる素質がある。
貴様は、我々と同じ志を持ち、自己犠牲をも省みない者だ。
結城中佐、日本を守り続けることができる組織を作れ。
だが、決して、その組織の存在を知られるな」、神尾がいう。
「ですが、すでに組織は作られているんですよね。
ならば、新たに私が組織を作る必要はないのではありませんか」、結城中佐がいう。
予備役の神尾は、不思議そうな顔をしていった。
「どこのどいつが、すでに組織は作られているといったんだ」
はっ、と気づいた結城中佐はいった。
「失礼しました、私の思い違いでした」
第二次世界大戦前、日本に或る組織が誕生した。
その組織は、日本を守り続けることを目的とし、誕生した組織だった。
当時、欧米列強による東南アジアの植民地化が進んでいた。
このままでは、日本は欧米列強に包囲され、やがて植民地となる。
組織の出した結論は、植民地となっている東南アジア各国の独立だった。
最終的に日本は敗れる、だが欧米列強の包囲網を崩すことはできる。
組織は日本のために、欧米列強に自由の戦いを挑んだ。
戦いを挑んだ結果、日本は敗れたが、独立国として存続することに成功したのである。
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