第349話 クーロンズ・アイ(後編)
休日、都内の河川敷、クジョウ レイコは、静かに目を開けると、話し始めた。
クジョウが話したのは、ニューヨーク証券取引所の暴落が起きた日の出来事だった。
クジョウは、東京都中央区日本橋兜町にある証券会社に勤務している。
職住近接こそが合理的という考えのクジョウは、中央区で1人暮らしをしている。
夜明け前に起床、区内をジョギングしてからの出社が、クジョウの日課だった。
その日も、クジョウは起床すると、トレーニングウェアに着替え、ジョギングを始めた。
ジョギングしていると、コンビニの前に1台の黒塗りの乗用車が停車していた。
やがて、コンビニから黒いコートを着てリュックを背負った男が、店員に連れ出された。
黒いコートを着た男が、黒塗りの乗用車に乗り込むと、乗用車は走り去った。
気になったクジョウは、車を見送る店員に近づいた。
「何かあったんですか」、クジョウが声をかけると、茶髪の若い男性店員が振り返った。
振り返った店員は、胸に「上杉」というネームプレートをつけていた。
クジョウを見た「上杉」という店員は、無表情な顔でいった。
「黒いコートを着た男は、東京証券取引所に落書きをしたそうです。
これから、警察に連れていかれて、取り調べを受けるんだと思います」
「上杉」という店員は、クジョウにいうと、コンビニの中へ戻っていった。
黒塗りの乗用車は、警察の車両だったのか。
クジョウはジョギングを続けたが、いくつかの違和感があった。
なぜ、黒いコートを着た男は、コンビニ店員に素直に従ったのか。
なぜ、黒いコートを着た男は、東京証券取引所に落書きしたのか・・・。
ジョギングを終えたクジョウは帰宅、身支度を終えると、いつも通り早朝出社した。
早朝出社したクジョウは、ニューヨーク証券取引所の暴落を確認した。
クジョウは、自社の資産運用部署である"アルカディア"の創設者であり責任者だった。
"アルカディア"メンバーは10名で、全員が女性社員だった。
平時の"アルカディア"は、クジョウと、"無敗の天然"ことテンマ リナの2名体制。
だが、必要に応じて、社長室秘書が他の9名に召集をかける体制だった。
暴落を確認したクジョウは、社長室秘書に"アルカディア"メンバーの招集を依頼した。
社長室秘書の招集に応じて、"アルカディア"メンバーが続々と集まってきた。
"アルカディア"メンバーがざわつく中、テンマ リナがメンバーの1人に話していた。
「出勤途中にある東京証券取引所の壁に、落書きがあったんですよ。
すっご~くリアルなドラゴンが描いてあったんですよ、しかも9匹も、ほら」
テンマはスマホの画像を、メンバーの1人に見せていた。
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