第348話 クーロンズ・アイ(中編)
休日、都内の河川敷に寝転び、考えに耽っていたジョウシマは声をかけられた。
「昼寝かと思ったら、難しい顔して考え事か」
ジョウシマが目を開けると、"無敗のクイーン"ことクジョウ レイコが見下ろしていた。
クジョウは髪を後ろで束ね、トレーニングウェアを着たアスリートスタイルだった。
「悩みがあるなら、聞いてやってもいいぞ」
クジョウはいうと、ジョウシマの横に座り、同じように寝転んだ。
ジョウシマはクジョウに、ニューヨーク証券取引所の暴落について話した。
Rという男が、Nという男に売りを指示したようだが、指示した方法がわからないと。
クジョウは空を見上げたまま、黙って聞いていた。
ジョウシマが話し終わると、クジョウが空を見上げたまま、つぶやいた。
「テクニカルで売りのサインとされている"デッドクロス"。
"デッドクロス"は、中長期の移動平均線が短期の移動平均線を突き抜けた状態・・・」
ジョウシマが、空を見上げたままいう。
「ニューヨーク証券取引所が暴落したときの指標は確認済だ。
NYダウ、日経平均、上海総合指数など、いずれの指標も"デッドクロス"は現れていない。
むしろ、"デッドクロス"が現れていなかったので、あれだけの暴落になったともいえる」
クジョウが、空を見上げたまま続けた。
「Rという男が目的を達成するには、2つの課題があったはずだ。
1つは、Nという男に売りを指示すること、1つは、N以外には売りを指示しないこと。
つまり、Rは、Nにしかわからない"デッドクロス"、を使った・・・」
「Nにしかわからない"デッドクロス"って何だ」、ジョウシマが空を見上げたまま聞く。
クジョウは目を閉じると、沈黙した。
ジョウシマにはわからなかったが、クジョウは明晰な頭脳をフル回転させていた。
クジョウは、ニューヨーク証券取引所が暴落する以前からの出来事を思い返していた。
"AI"ベイビーのブラックフライデー(暗黒の金曜日)による世界恐慌の危機が起きた。
だが、全世界の勇気ある投資家が買い向かったことで、世界恐慌は回避された。
その後、世界経済に波はあったが、概ね順調に市場は推移していた。
ところが、Rの指示でNが売り、ニューヨーク証券取引所は暴落した・・・。
そのとき、クジョウはある出来事を思い出した。
当時は些細に思った出来事だったが、今、思うとあまりにもタイミングがよすぎる。
もし、あれが"デッドクロス"なら、確かに限られた者にしかわからない。
クジョウは、静かに目を開けると、話し始めた。
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