2020年10月19日月曜日

銘柄を明かさない理由R358 怪物たちの創造主(後編)

第358話 怪物たちの創造主(後編)

ニューヨークのマンハッタンにある高級アパートメントの一室。
"仮面の相場師"こと、アンザイ カズマは、舞台俳優の傍ら、相場を張る相場師だった。
アンザイは、リビングのソファで新しい舞台の台本「Nine dragon eyes」を読み終えた。
「Nine dragon eyes」は、1960年代からのドイツを舞台にしていた。

1945年5月8日、第二次世界大戦でドイツは無条件降伏した。
同年7月、ベルリン郊外のポツダムで、戦勝国による会談が行われた。
このときのポツダム協定で、ドイツは戦勝国により分割占領されることになった。
首都ベルリンも戦勝国により、それぞれの管理地区に分割されることが決まった。

だが、戦勝国であるソ連と米英仏の対立は、深まっていった。
1948年6月24日、ソ連が、米英仏のベルリンの管理地区と西ドイツとの陸路を封鎖した。
ソ連の「ベルリン封鎖」に対し、米国は生活物資の空輸「ベルリン大空輸」で対抗した。
1949年5月12日、ソ連はベルリン封鎖を解除、「ベルリン封鎖」は失敗に終わった。

この対立で、ドイツは、ドイツ民主共和国とドイツ連邦共和国の東西ドイツに別れた。
冷戦時代に入ってから、東ベルリンから西ベルリンへの人口流出が後を絶たなかった。
危機感を抱いたソ連と東ドイツは、1961年8月13日午前0時に、西ベルリンを包囲した。
西ベルリンと東ドイツの境界線に、巨大な「ベルリンの壁」を建設した。

以後、東ベルリン市民の西ベルリンへの通行は不可能となった。
多くの人々が、家族や友人たちと、不意に引き裂かれることになった。
そして、「ベルリンの壁」を越えようとした人が、射殺されるなどの悲劇が生まれた。
「Nine dragon eyes」は、「ベルリンの壁」に翻弄された人々の物語だった。

「ベルリンの壁」を越えようとした人々と、それを支援した人々が主人公だった。
アンザイの役は、支援の中心的な役割を担った日系2世の米国軍人役だった。
アクションあり、ロマンスありの、万人受けしそうな話だと、アンザイは思った。
だが、「Nine dragon eyes」には、違和感があった。

なぜ、この物語が「Nine dragon eyes(ナインドラゴンアイズ)」なんだ。
確かに、登場人物の1人が「ナインドラゴンアイズのように!」と叫ぶ場面はある。
だが、「Nine dragon eyes」が出てくるのは、その場面だけだ。
通常なら、「ベルリンの壁」に関連したタイトルにすべきだ。

誰かが、何らかの目的で「Nine dragon eyes」のタイトルにしたとしか思えない。
「Nine dragon eyes」に、多くの企業が協賛していることも腑に落ちない。
アンザイは、テーブルにあるノートPCを引き寄せると、起動させた。
アンザイは、自分を怪物にしたジツオウジ コウゾウへ向けたメールを打ち始めた。

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