第383話 つかの間の平穏(前編)
兜町にある日本一の株屋のトレーディングルーム。
チーフトレーダーである内海の元へ、部下の塚原がやってきた。
「最新のデータをお持ちしました」、塚原は、内海のデスクに書類を置いた。
「ご苦労」、内海がいうと、塚原は自分の持ち場へ戻っていった。
内海は書類を持ち上げると、目を通し始めた。
最初のページは、対前年比増の自社の売上げと利益を記載したページだった。
くだらん、内海は自社の売上げと利益が記載されたページをスルーした。
やがて、目的のページが見つかった。
目的のページは、各国市場の詳細な売買状況を記載したページだった。
内海は、日本一の株屋のチーフトレーダーだが、財務省にも属している。
また、日本を守り続けてきた"名のない組織"に属する、"日本証券界の守護者"だった。
"名のない組織"は、劉宋明(りゅうそうめい)への反撃を行った。
反撃のコード名は、"風林火山(ふうりんかざん)"と名付けられていた。
"風"は、初期段階における素早い情報収集、"林"は、水面下での静かな反撃準備。
"火"は、劉が売り注文を終えたところでの、相場上昇の仕掛け。
"山"は、劉宋明が動かせない上昇相場の"山"を作ることだった。
"山"が終わって、数か月。
劉宋明の関係先は、散発的な買い戻ししかしていなかった。
思っていたより、愚かではなかったな、だが、今の"山"は一合目にすぎない。
貴様の動き次第で、いつでも高くしてやる、内海は不敵な笑みを浮かべた。
同じ頃、兜町にある証券会社のトレーディングルーム。
"無敗のキング"ことジツオウジ コウゾウが創業した、独立系の証券会社。
そのトレーディングルームは、通称"アルカディア(理想郷)"と呼ばれていた。
"アルカディア"の責任者、"無敗のクイーン"こと、クジョウ レイコはイラついていた。
なぜ、そんな大きな目立つものを、腰からぶら下げているんだ、気になるだろう。
それは何だ、と聞いて欲しいんだろうが、聞くのも癪なので、聞かないことにしよう。
クジョウの視線の先には、椅子に座った"無敗の天然"ことテンマ リナがいた。
テンマの腰には、鎖のような大きなキーチェーンがあり、先端に鍵がぶら下がっていた。
クジョウの視線を感じたのか、テンマが振り返った。
「この鍵が、どこの鍵か教えろですか、う~ん、困ったな、リーダーだけに教えますね。
ヨドヤさんが開設する東京事務所の鍵なんですよ~」、嬉しそうにテンマがいった。
誰も何も聞いていないだろ、クジョウは思ったが、顔には出さなかった。
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