自身はオリジナル小説「銘柄を明かさない理由R」を執筆している。
「銘柄を明かさない理由R」は、5人の無敗の相場師と取り巻く人々の物語である。
現在、新シリーズの「出羽の天狗(でわのてんぐ)編」を執筆中である。
「出羽の天狗編」では、東の本間と西の淀屋の戦いが物語の軸となる。
ある登場人物から、過去の両家の争いを書かんかい、とリクエストがあった。
よって、過去に両家の間にあったことを書くことにする。
いったん、時を太平洋戦争の終戦後に戻すことにする。
では、「銘柄を明かさない理由R 出羽の天狗編」をお届けするw
-------------------------------------------------------
第392話 還って来た男(前編)
1946年5月、快晴の日本海に面する舞鶴港。
舞鶴港は、本州の日本海沿岸が南に入り組んだ若狭湾西部の舞鶴湾にある港。
外海に対して入り江になっており、「みずなぎ」と呼ばれる湾内は極めて静穏である。
また四方を山々に囲まれており、強風・荒天を避けることのできる天然の良港でもある。
その日、一隻の復員船が舞鶴港に着岸した。
港では出迎えていた人々が、復員してきた人々との再会を喜んでいた。
「なんで、誰も来てへんねん」
復員船から降りてきた、若い軍服姿の男は、周りを見ると、ふてくされた様子でいった。
「九代目~」、軍服姿の男に声がかけられた。
軍服姿の男が振り返ると、おかっぱ頭で着物姿の若い男が走り寄ってきた。
「おう、番頭の三助やないけ、久しぶりやな」、軍服姿の男が若い男にいった。
「お元気そうで何よりです」、三助と呼ばれた若い男が目を潤ませていった。
「元気で当たり前や、ワテが元気でないわけ、あらへんやろ」、軍服姿の男がいう。
「東京で学徒出陣された九代目と、またお会いできるとは・・・」、三助が泣き始めた。
「何を泣いてんねん、出迎えは三助だけか」、軍服姿の男が聞く。
「さ・・・三助だけではありまへん」、三助が泣きじゃくりながら右手を挙げた。
「チンチン♪ドンドン♪チンドンドン♪」
チンドン太鼓と呼ばれる楽器を奏でる、着物姿の男女の一団が現れた。
背中に指した旗には、「お帰りなさい九代目」、「日本一のご帰還」と書かれていた。
周囲の人々が驚く中、チンドン屋は軍服姿の男の周りで、チンドン太鼓を奏でた。
「いくらなんでも、目立ちすぎやろ」、軍服姿の男が小声で、三助にいう。
「ま・・・まだ、大道芸もあります」、三助が泣きじゃくりながらいう。
「歓迎してくれたんはわかったから、この場から離れさしてくれ」、軍服姿の男がいう。
「わ・・・わかりました」、三助が泣きじゃくりながら、左手を挙げた。
三助が左手を挙げると、のぼりを立てたリヤカーを引く牛を連れた、初老の男が現れた。
「九代目には車を用意したかったのですが、こんなものしか用意できまへんでした。
ホンマに申し訳ありまへん」、三助が激しく泣きじゃくり始めた。
「なに、いうてんねん、ワテには贅沢すぎや、ありがとな」、軍服姿の男が笑顔でいう。
軍服姿の男は、意気揚々と、のぼりを立てたリヤカーに乗り込んだ。
牛に引かれたリヤカーは、最寄り駅の方角へ向け、のんびりと進み始めた。
軍服姿の男たちがいなくなると、港にいた人々は、彼らのことを噂しあった。
後に、人々は、軍服姿の男が淀屋九代目当主、淀屋勝利(かつとし)であることを知った。
0 件のコメント:
コメントを投稿