自身はオリジナル小説「銘柄を明かさない理由R」を執筆している。
「銘柄を明かさない理由R」は、5人の無敗の相場師と取り巻く人々の物語である。
現在、新シリーズの「出羽の天狗(でわのてんぐ)編」を執筆中である。
「出羽の天狗編」では、東の本間と西の淀屋の戦いが物語の軸となる。
「出羽の天狗編」には、信用取引による仕手戦の場面がある。
賢明なる読者の方は大丈夫だと思うが、信用取引に手を出してはいけない。
なぜなら、信用取引は証券会社が儲かる仕組みになっているからだ。
では、「銘柄を明かさない理由R 出羽の天狗編」をお届けするw
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第403話 鬼神と呼ばれた男(後編)
兜証券の社長室。
黒い眼帯をした社長の犬神、淀三証券の勝利と三助がいた。
ソファに坐る3人の前に、お茶を出した秘書が退室した。
"鬼神(おにがみ)"と呼ばれとる犬神さんを見るのは、久しぶりやな、三助は思った。
1949年(昭和24年)5月16日。
東京証券取引所で、売買立会が開始された。
だが、GHQにより、戦前戦中の「仕切り売買」や「先物取引」は禁じられていた。
そんな中、人気を集めたのが、将来、発行される新株の引受権である"ヘタ株"だった。
発行される際の価格が未定の"ヘタ株"は、「先物取引」と同じ売買が可能だった。
1950年2月、旭日硝子株式会社の増資新株、"ヘタ株"の売買が可能になった。
旭日硝子の理論株価は220円だったが、初日の取引終値は410円の大幅高となった。
当時、老舗大手証券会社の副社長だった犬神は、旭日硝子の"ヘタ株"を買い進めた。
日々、高値を更新する旭日硝子の"ヘタ株"に、全国の証券会社が売り方に回った。
同年4月、売り買いの均衡が崩れ、売り方による怒涛の売りが始まった。
前日終値の417円から67円暴落の350円となり、その日の取引は終わった。
誰もが売り方の勝利で、買い方の負けだと思った。
翌朝、東京証券取引所の立会場に、右目に黒の眼帯をした犬神が現れた。
「成り行きで全部買え」、犬神は自社の社員に激を飛ばした。
副社長である犬神の陣頭指揮に、売り方は、何か材料があるのでは、と不安になった。
やがて、買い方が優勢となり、この日の終値は101円高の451円となった。
あまりの過熱ぶりに、翌日から旭日硝子の"ヘタ株"取引には、取引制限が設けられた。
翌日も、東京証券取引所の立会場に現れた犬神は、自社の社員に激を飛ばした。
"鬼神"のような犬神の陣頭指揮で、終値は531円のストップ高となり、買い方が勝利した。
旭日硝子の仕手戦に勝利したのち、犬神は大手証券会社を退社、兜証券を創業した。
「話を聞こうか」、犬神がいう。
「"鬼神"と呼ばれとる犬神はんに頼みがある。
兜証券の信用取引をさせてくれへんか」、勝利がいう。
「なぜ、兜証券の信用取引がしたいんだ」、犬神が聞く。
「本間商会の本間大蔵とやりあうことになったんやけど、金が足りまへんねん。
信用取引なら、現物以上の金を動かせるやろ」、勝利がいう。
証券会社でありながら、仕手戦のために、他社の信用取引をしようというのか。
前代未聞の勝利の話に、"鬼神"こと犬神は驚かされた。
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