2021年1月26日火曜日

銘柄を明かさない理由R404 伝説の仕手戦(前編)

第404話 伝説の仕手戦(前編)

「久しぶりに会ったが、相変わらず面白い奴だな」、笑みを浮かべた犬神がいう。
「そんな、おもろいこというたつもりはないんやけど。
久しぶりって、前にどっかで会うてましたっけ」、勝利が犬神をまじまじと見ながら聞く。
「かっての教官を忘れたのか」、犬神がいう。

「教官・・・、ぐ、軍事教練の教官やった犬神少佐でっか」、勝利が驚いていう。
「あれから、いろいろあってな、今はここの社長だよ。
淀屋の噂は聞いていたよ、久々に会えて嬉しいよ」、犬神がいう。
「ワテも嬉しいです、眼帯してはるんで、わかりまへんでした」、勝利がいう。

軍事教練とは、大日本帝国の学校における教練をいう。
1925年から、陸軍現役将校が対象の学校に配属され行われた。
勝利が通っていた大学でも、軍事教練が行われており、犬神少佐が教官だった。
その日の午前、勝利たちは初めての軍事教練を受けることになっていた。

校庭に整列する学生たちの前に、険しい顔つきをした犬神少佐が現れた。
「教官の犬神だ、軍事教練を始める前に、きさまらに確認することがある。
この中に食堂のふかし芋をつまみ食いした奴がいる、身に覚えのある奴は名乗り出ろ」
誰も名乗り出ないので、犬神少佐は学生たちの顔を見て回った。

「きさまか、つまみ食いしたのは」、立ち止まった犬神少佐が勝利に聞く。
「自分はしてないであります」、勝利が直立不動のままいう。
「じゃあ、口の端についてる芋は何だ、教練が終わるまで校庭を走っていろ」
「了解であります」、勝利は校庭を走り始めた。

勝利が犬神との出会いを回想していると、犬神がいった。
「ここだけの話、淀屋には教えといてやる、この眼帯ははったりだ。
眼帯していれば、戦闘で目を負傷した勇敢な人という印象を与えることができる」
犬神が右手を使って眼帯を上にあげると、無傷の右目があった。

「ところで、信用取引には、株券もしくは現金の担保が必要になる。
担保は用意できるのか」、眼帯を下げた犬神が勝利に聞く。
「株券も金も足りへんので、淀三証券を担保にしたいんや。
期限までに返済できへんかったら、淀三証券は兜証券のもんや」、勝利がいう。

犬神は笑みを浮かべ、勝利にいった。
「やはり、淀屋は面白い、仕手戦のために会社を担保にするとはな。
証券会社の担保とは前代未聞だが、ある意味、最強の担保かもしれんな。
信用取引の件は承知した、うちの社員に仕手戦を教えてやってくれ」

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