第408話 別れの時(中編)
「白井は指示に対して、いつも、なぜですかと聞いてきよる、なぜなぜ小僧やった。
ホンマ、うっとうしかったわ」、白井は申し訳なさそうにうつむいた。
「けど、尾上セメントを買おうとしたとき、白井のなぜで財務内容を確認できた。
結果、買いを見送ったことで、倒産する尾上セメントを買わんで済んだ」、勝利がいった。
「板垣は白井と正反対やったな、頭より体が先に動く、な~んも考えへん男や。
ホンマ、扱いづらかったわ」、板垣は申し訳なさそうにうつむいた。
「けど、カスミ電機を買うか迷うとったとき、板垣はいうてくれた。
すぐに決めてくださいと、おかげで買いを即決、儲けることができた」、勝利がいった。
淀屋らしいな、さりげなく彼らの長所を、俺に伝えるとは、犬神は思った。
「白井、板垣、今のお前らは、兜証券では間違いなく下っ端や。
最初は、お茶くみや電話番をやらされるかもしれへん。
けど、お前らには誰にも負けへん、ええとこがある、頑張るんやで」、勝利がいった。
こらえきれなくなった三助が泣きながらいった。
「白井・・・、板垣・・・、頑張るんやで」
「ほ、本当にありがとうございました。淀三証券でのことは一生、忘れません」
白井が大粒の涙を流しながらいった。
「し、白井みたいに、め、女々しく泣いてたまるか・・・。
社長・・・、三助さん・・・、本当にお世話になりました。
この板垣、兜証券の下っ端として、一から頑張ります」
板垣が泣くのを必死でこらえながらいった。
淀屋、お前の望みは叶えてやる、こいつらの面倒は俺がみてやる、犬神は思った。
「さてと、ほな、行こか、三助」、勝利がいう。
「は、はい、九代目」、三助が涙を拭っていう。
「淀屋、これからどうするんだ」、犬神が聞く。
「どうしたらええかは、お月様が教えてくれるやろ、なあ三助」、勝利がいう。
「そうでんな、お月様の教えに従いましょう」、三助がいう。
「ほな、犬神はん、白井と板垣、あと山崎のこと、よろしく頼んます」
旅行カバンを持った勝利と風呂敷を背負った三助は、頭を下げると、淀三証券を出た。
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