2021年1月22日金曜日

銘柄を明かさない理由R400 挑戦状(後編)

第400話 挑戦状(後編)

兜町の淀三証券、本間大蔵が挑戦状を届けに来た日の夜。
1階の洋間では、三助が、勝利から手渡された本間大蔵からの挑戦状を読んでいた。
挑戦状には、商社、海運、鉄鋼の3銘柄が書かれていた。
3銘柄の売買で、本間大蔵を上回る利益を上げてみろ、という内容だった。

この3つの銘柄は、比較的、出来高が少ない株や、勝負するにはもってこいの株や。
けど、銘柄を3つにしてくれたんは、よかった。
淀三には、九代目、白井、板垣の3人がおるから、取りこぼすことはあらへん。
三助は、3つの銘柄の買値と売値を計算すべく、算盤を取り出した。

「三助、そろそろ寝えよ」、眠そうな勝利がいう。
「今夜は遅くなるかもしれまへん、九代目は先に休んでください」、三助がいう。
「あんまり、根詰めんなよ、三助」、あくびをした勝利は、2階の自室へ向かった。
三助は、現在の株価を確認すると、買値と売値を計算すべく、算盤を弾き出した。

翌日の東京証券取引所。
立会場の端に立った三助は双眼鏡で、両側の黒板を交互に見ていた。
本間大蔵の3つの銘柄の1つの株価が書かれると、三助は両手を上げ、合図を送った。
グレーのスーツ姿の勝利が、ポストへ脱兎の如く駆け出した。

再び、三助は双眼鏡で、両側の黒板を交互に見た。
黒板には、本間大蔵の3つの銘柄の2つ目の株価が書かれた。
白井、行くんや、三助は両手を上げ、合図を送った。
丸レンズのロイド眼鏡をかけた白井が、ポストへ勢いよく駆け出した。

再び、三助は双眼鏡で、両側の黒板を交互に見た。
黒板には、本間大蔵の3つの銘柄の3つ目の株価が書かれた。
板垣、行くんや、三助は両手を上げ、合図を送った。
髪をオールバックにした板垣が、ポストへ勢いよく駆け出した。

小1時間が過ぎる頃、三助はあることに気づいた、
3銘柄は出来高が急増、出来高の急増に伴い、株価は急騰しつつあった。
なんや、これ、こんなん、今まで見たことあらへん。
ま、まさか、3銘柄同時に仕掛けてきとるんか。

売りに対して、買い向かうのが、淀三や。
そやけど、このままやったら、資金が尽きて、買い向かえんようになる。
しばらくの間、三助は今後の展開を考えていた。
残念やけど、今日はここまでや、三助は両手を上げ、撤収の合図をした。

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