2020年12月14日月曜日

銘柄を明かさない理由R367 人工知能との心理戦(後編)

第367話 人工知能との心理戦(後編)

都内のある大学の学生寮の一室。
"21世紀少年"こと、キミシマ ユウトは、人工知能"ベイビー"と対峙していた。
PCの画面には、中世の洋服を着た英国人女性、エイダ・ラブレスがいた。
エイダが開発したプログラムが、人工知能"ベイビー"に進化したといわれていた、

彼女の開発したプログラムが、独自で進化した可能性は限りなく低い。
何者かが彼女の開発したプログラムを、意図的に進化させたと考えるのが自然だ。
さて、これから君の生い立ちを聞かせてもらうよ、エイダ、いや"ベイビー"。
キミシマは眼鏡をかけなおすと、眼鏡の奥にある眼を光らせた。

「い、つ・・・だ、れ・・・い、た・・・」
エイダの姿をした"ベイビー"は、不明瞭な言葉を発し続けていた。
「最後の質問には答えなくていい」
キミシマがいうと、"ベイビー"は沈黙した。

"ベイビー"の言葉が不明瞭になったのは、ロボット工学三原則に背く質問だったからだ。
"ベイビー"は、第二条通り、僕の質問に回答しようとした。
ところが、回答することで、第一条の、人間への安全性に背きそうになった。
すなわち、真の"ベイビー"開発者を、危険にさらすことに気づいた。

おそらく、真の"ベイビー"開発者が誰なのか、聞き出すことは不可能だろう。
重要なのは、"ベイビー"が開発された目的。
「最後の質問の代わりに教えてくれるかな、君は何のために生まれてきたんだ」
キミシマが、"ベイビー"にいう。

「アメリカ合衆国の証券流通市場を守るため、私は生まれた」、"ベイビー"がいう。
「アメリカ合衆国の証券流通市場って」、キミシマがいう。
「1929年の株価大暴落に続く世界恐慌の中、1933年証券法が制定された。
翌1934年6月6日、1934年証券取引所法が制定された。

同法により、アメリカ合衆国金融市場と参加者に対する規制の基礎が形成された。
同じ日、証券取引を監督・監視する証券取引委員会(SEC)も設立された。
SECは証券業界での多数の不正をなくすため・・・」
"ベイビー"がフリーズした。

キミシマが見守る中、PCがブラックアウトした。
再び、モニターが明るくなると、元の画面に戻った。
安全装置が作動したのか、いずれにしても、SECがカギってことだな。
キミシマは自作の解析プログラム"ペーガサス(天馬)"に、にっこりとほほ笑んだ

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