銘柄を明かさない理由R378 動かざること山の如し(中編)
ベルリンから、"BUY(買い)"ドラゴンの絵が配信されたのは、現地時間の18時だった。
上海の現地時間は午前1時の真夜中で、ほとんどのトレーダーは就寝していた。
一方、ニューヨークの現地時間は、正午のランチタイムだった。
ランチタイム、ウォール街の多くのトレーダーたちは、"BUY"ドラゴンの絵を目にした。
オフィスの自席PCのネットニュース、街中のカフェテリアのテレビのニュースなど。
遠く離れたドイツのイベントだったが、トップニュースとして配信されていた。
日本の"名のない組織"が、トップニュースとして配信されるようしていたためだった。
"BUY"で描かれたドラゴンの絵には、「買い」を促すサブリミナル効果があった。
その日の、ニューヨーク証券取引所は、売り優勢で始まっていた。
劉宋明(りゅうそうめい)の関係先からの売り注文は、開始早々、全て約定していた。
ダウ平均株価は、午前中に大きく値を下げ、年初来安値となっていた。
誰もが、今日のダウ平均株価は、年初来安値になると思っていた。
ところが、ランチタイムが終わると、大量の買い注文が繰り返し入り、出来高が急増した。
瞬く間に、前日終値になったダウ平均株価は、さらに騰がり続けた。
現地時間16時の取引終了時には、ダウ平均株価は年初来高値となっていた。
ニューヨーク証券取引所の長い歴史でも、史上初となる値動きだった。
ニューヨークの現地時間16時は、上海の現地時間5時だった。
上海の自宅寝室では、劉宋明が就寝中だった。
枕元で充電していたスマホの着信音が鳴った。
誰だ、こんな時間に、劉は上半身を起こすと、スマホを取り上げた。
電話をかけてきたのは、劉の部下の1人、黄(こう)だった。
「何だ、こんな朝早くから」、「申し訳ありません、緊急事態です」
黄からの報告を聞く、劉の顔から血の気が引き始めた。
「わ、わかった、すぐ向かう」、劉は通話を終えると、出社すべく身支度を始めた。
ニューヨークの現地時間16時は、東京の現地時間6時だった。
兜町にある証券会社には、"無敗のクイーン"こと、クジョウ レイコが出社していた。
クジョウは、昨日のニューヨーク証券取引所の異常な値動きを確認した。
この値動きには何かしら原因があるはずだ、クジョウは取引時間中の出来事を調べていた。
クジョウは、ドイツから配信されたイベントのニュースのドラゴンの絵を見つけた。
これは"SELL"ドラゴン、いや、よく見ると、"SELL"ではなく"BUY"で描かれている。
誰かが相場を上昇させるために、"BUY"ドラゴンの絵を使ったのか。
今日の相場は面白くなりそうだ、クジョウはクイーンの如く、優雅な笑みを浮かべた。
0 件のコメント:
コメントを投稿