銘柄を明かさない理由R373 "ベイビー"を作った男(後編)
1975年、アメリカ証券取引委員会(SEC)。
「ご存じも何も、ウォール街で君の父親を知らない者はいない。
なぜ、息子の君が、"ベイビー"の開発を引き受けたんじゃ」、ジェームズがいう。
そのとき、漆黒の巨大な機械、"ベイビー"のアラームが鳴った。
「そのご質問には、父から回答させていただきます」
ジョン・ジュニア・テンプルトンがいい、"ベイビー"の端末を操作した。
アラームが鳴り止み、"ベイビー"のスピーカーから声がした。
「久しぶりだな」、声の主は、サー・ジョン・マークス・テンプルトンだった。
「この機械、"地獄の番犬"となる"ベイビー"は、私から君たちへのギフトだ。
これから、ウォール街は世界経済の中心とならなくてはならない。
ウォール街のため、"ベイビー"を役立ててくれたまえ、以上だ」
「父からは以上です」、ジョン・ジュニア・テンプルトンが、笑みを浮かべていった。
この年から、"ベイビー"は、ウォール街の"地獄の番犬"として稼働した。
不正な取引があった場合、いち早く察知、反対売買を行うことで、相手に損失を与えた。
1987年10月19日、香港で株価の暴落が起こった。
"ブラックマンデー(暗黒の月曜日)"と呼ばれる世界的な株価大暴落の始まりだった。
同日、ニューヨーク証券取引所には、早朝から売り注文が殺到した。
SECは、暴落の原因を突き止めるべく、"ベイビー"をフル稼働させた。
ダウ平均株価は、過去最大となる508ポイント(22.6%)、暴落した。
しかし、"ベイビー"により、ニューヨーク証券取引所のシステムダウンは回避できた。
数週間後、アメリカ証券取引委員会(SEC)の会議室。
"ベイビー"のデータを元にした、"ブラックマンデー"の報告会が行われていた。
スーツ姿の男性委員、アダムスが、スクリーンの前に立ち、報告していた。
参加している十数名の機関投資家たちは、アダムスの報告に聞き入っていた。
「以上のデータから、今回の暴落は意図的に起こされた可能性が高いといえます」
アダムスが報告を終えると、機関投資家たちが、ざわつき始めた。
「ぼ、暴落を、意図的に起こした人物は特定できているのかね」
1人の機関投資家が、アダムスに質問した。
「特定できていませんが、かなり可能性が高い相手はわかりました。
相手は個人ではなく、アジアの超大国です」、アダムスが不敵な笑みを浮かべていった。
この日を境に、米国と中国による経済戦争、マネーウォーズが始まった。
21世紀には、米国の"ベイビー"と中国の"クーロンズ・アイ"による代理戦争となった。
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