銘柄を明かさない理由R370 ウォール街の相場師(後編)
しばらく沈黙した後、ジェームズがいった。
「わかりました、私は何をすればよろしいでしょうか」
「ウォール街のオオカミ」こと、ジョセフは不敵な笑みを浮かべるといった。
「相変わらず察しがいいな、君にはウォール街の"地獄の番犬"を作ってもらいたい」
「"地獄の番犬"になれ、ではなく、作れとは」、ジェームズがいう。
「言葉通りの意味だよ、君や他のメンバーも、いつかはSECを去ることになる。
すると、ウォール街には不正な取引を行う輩(やから)がはびこることになる。
ならば、"地獄の番犬"を作ればいい」、ジョセフがいう。
「"地獄の番犬"とは、いかなるものでしょうか」、ジェームズがいう。
「"機械式計算機"を知っているか」、ジョセフがいう。
「噂には聞いています、なんでも四則計算ができる機械だとか」、ジェームズがいう。
ジョセフの不敵な笑みが大きくなった。
「機械が、人間しかできなかった四則計算をできるようになった。
おそらく、これから機械ができることは、もっと多くなる。
いずれ、SECの仕事も、機械が行えるようになる」、ジョセフがいう。
「ま、まさか・・・」、ジェームズがいう。
「英国のチャールズ・バベッジとエイダ・ラブレスが"機械式計算機"の開発を行った。
なかでも、エイダ・ラブレスは、単なる計算機に留まらない可能性を見出している。
君には、エイダ・ラブレスの考えを元にした、"地獄の番犬"を作ってもらいたい」
ジョセフが、不敵な笑みを浮かべたままいう。
「か、かしこまりました・・・」
ジェームズは"機械式計算機"の知見はなかったが、承諾するしかなかった。
「期待しているぞ、一刻も早く、"地獄の番犬"となる"ベイビー"が生まれるのを」
ジョセフが、不敵な笑みを浮かべたまま、ジェームズにいった。
1937年、SECを辞したジョセフは、連邦海事委員会の委員長に任命された。
1938年、ジョセフは、在英国アメリカ合衆国大使に任命された。
1940年、ジョセフは辞任に追い込まれ、政治家としての生命を絶たれた。
1969年、波乱の生涯を送ったジョセフは、家族に見守られ、静かに息を引き取った。
1975年、アメリカ証券取引委員会(SEC)の会議室。
スーツ姿の委員たちが待っていると、杖をついた老齢男性が現れた。
「ようやく、"地獄の番犬"となる"ベイビー"が生まれたようじゃな」
杖をついた老齢男性、ジェームズ・ランディスは不敵な笑みを浮かべ、委員たちにいった。
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