2020年12月29日火曜日

銘柄を明かさない理由R377 動かざること山の如し(前編)

銘柄を明かさない理由R377 動かざること山の如し(前編)

宵闇に包まれたドイツ連邦共和国ベルリン州。
帝国議会議事堂周辺の上空には、ドイツ公共放送連盟を始めとする取材ヘリが多くあった。
ドイツ公共放送連盟(ARD)の取材ヘリには、インカムを装着した女性キャスターがいた。
女性キャスターは、眼下の帝国議会議事堂を見ながら、全世界への実況中継を始めた。

「帝国議会議事堂で行われる、イベントまで、あと少しです。
今まで、帝国議会議事堂を使ったイベントが、行われたことはありませんでした。
ブロードウェイで行われる、我が国の史実に基づいた新作舞台のイベントとのことです。
果たして、どのようなイベントが行われるのでしょうか」

帝国議会議事堂の前には、1台の大型貨物トラックが停車していた。
予告されていた時刻になると、大型貨物トラックの両サイドのパネルが垂直に開き始めた。
"ガルウィング"といわれる開閉方法だった。
両サイドのパネルが開くと、荷台には、多くの機材と複数の人影が確認できた。

荷台にある機材の、いくつかが動き始めた。
機材は荷台の外側にアームを伸ばすと、上空へ向かって先端の筒を伸ばした。
「eins(アインス)」、「zwei(ツヴァイ)」、「drei(ドライ)」、・・・。
荷台のスピーカーから、ドイツ語の1、2、3、・・・を意味する音声が流れ始めた。

音声に合わせ、上空へ伸びた筒から、次々に花火が発射された。
荷台の機材から、帝国議会議事堂にプロジェクションマッピングが投影された。
投影されたのは、新作舞台"Nine dragon eyes"のプロモーション動画だった。
終戦後のドイツのニュース映像が、字幕つきで流れ始めた。

上空に次々と花火が打ち上る中、プロモーション動画は流れ続けた。
ニュース映像が終わると、舞台内容を説明する文章が投影された。
「1961年8月13日午前0時、西ベルリンは包囲され、その後、巨大な壁が建設された。
ドイツ分断の象徴、"ベルリンの壁"は、多くの人々の運命を変えることになった」

舞台内容を説明する文章が終わると、舞台俳優の紹介が流れ始めた。
紹介が終わると、上部に白地に黒の"Nine dragon eyes"のタイトルが表示された。
やがて、タイトルの下に、徐々に黒の模様らしきものが現れ始めた。
現れたのは、黒で描かれた9匹のドラゴンが、こちらをにらみつけている絵だった。

一見すると、ブロードウェイで投影されたドラゴンの絵と同じに見えた。
ブロードウェイで投影されたドラゴンは、いくつもの"SELL(売り)"で描かれていた。
だが、ベルリンのドラゴンに"SELL"はなく、いくつもの"BUY(買い)"で描かれていた。
日本の"名のない組織"発案の相場を上昇させる仕掛け、"火"の最終段階だった。

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