第364話 徐かなること林の如く(後編)
都内のある大学の学生寮の一室。
"21世紀少年"こと、キミシマ ユウトは静かにPCを眺めていた。
キミシマはネット世界に、自作の解析プログラム"ペーガサス(天馬)"を放った。
放った理由は、「Nine dragon eyes(ナインドラゴンアイズ)」を調べるためだった。
"ペーガサス"を放ってから、1時間近くになるが、まだ帰ってきていなかった。
検索条件が「高度」とはいえ、あまりにも時間がかかりすぎている。
今まで、こんなに時間がかかったことはなかった。
"ペーガサス"にはバグはないはずだ、何かの力が働いているのか。
そのとき、PCの解析プログラム"ペーガサス"に変化があった。
"ペーガサス"の画面に、青く光る眼をもつ白の天馬が現れた。
やっと帰ってきた、お帰りペーガサス。
キミシマが安堵した瞬間、PCがブラックアウトした。
えっ、キミシマがあっけにとられる中、PCの画面が明るくなり始めた。
PCの画面に浮かび上がったのは、中世の洋服を着た英国人女性だった。
中世の洋服を着た英国人女性は、キミシマを見ると、かすかに微笑んだ。
な、なぜ、エイダが、キミシマは思わず口を開き、あ然とした。
1815年12月10日、英国で生まれたエイダ・ラブレス。
彼女は、初期の汎用計算機である解析機関についての著作で知られている。
その後、エイダ・ラブレスは子宮癌を患い、36歳という若さで死去した。
エイダ自身の願いにより、彼女の遺体は父であるバイロンの隣に葬られた。
やがて、彼女が開発したプログラムが進化、人工知能"ベイビー"となった。
数年前、人工知能"ベイビー"により、ニューヨーク証券取引所が暴落した。
キミシマは、"ベイビー"を制御できるプログラム"ベイビーワールドエンド"を作った。
"ベイビーワールドエンド"により、"ベイビー"、すなわち、エイダは消滅したはずだ。
「ようやく、"クーロンズ・アイ"への反撃が始まるようね」、エイダがいう。
「エイダ・・・君は消滅したはずじゃ・・・」、キミシマがいう。
「ネット世界で消滅するなんてことはあり得ないわ」、エイダがいう。
「しょ、消滅させようとした僕に仕返しにきたのか」、キミシマがいう。
「消滅させることができなかったのよ、あなたに仕返しする理由はないでしょう。
私が仕返しするのは別の相手、"クーロンズ・アイ"よ。
"昨日の敵は今日の友"ともいうじゃない、仲良くしましょうよ」
エイダが笑みを浮かべながら、キミシマにいった。
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