2021年12月8日水曜日

銘柄を明かさない理由R415 難波の女帝(後編)

第415話 難波の女帝(後編)

大阪市中央区北浜のビルの一室。
室内には、「最後の相場師」と呼ばれている高齢の是川銀蔵。
是川の弟子で、後に「無敗のキング」と呼ばれるジツオウジ コウゾウ。
是川銀蔵に株の教えを請いたい、淀屋二代目本家のヨドヤ タエがいた。

「初めまして、ヨドヤ タエと申します。
先生に株式投資を教えて欲しいと思い、ご連絡させていただきました。
授業料はお支払いいたしますので、株式投資をお教えいただけないでしょうか」
タエが是川を見ながらいう。

「なぜ、株式投資を教えて欲しいと思った」、是川が聞く。
「不動産業をしていますが、今の土地価格は異常で、いずれ暴落します。
ですが、家業である不動産業は続けなくてはなりません。
土地が暴落したなら、不動産株を売ればよいかなと考えました」、タエが答える。

しばらくの間、黙っていた是川タエを見ながらいう。
「ワシは信用取引を人に勧めたことはない。
信用取引は正道ではなく邪道、個人が行うには危険すぎる。
だが、土地取引のリスクヘッジに株を売るとは、面白い発想じゃ。

ジツオウジもそうじゃが、ワシは金を貰って、手取り足取り教えることはせん。
都合のよいとき、ワシに帯同することで、相場観を養うがええ」
「ありがとうございます」、タエは頭を下げて、礼を言った。
もしかして、姓のヨドヤは米市の淀屋と関係があるのか」、是川が聞く。

「はい、関係ありますが、初代本家ではなく二代目本家です」、タエが答える。
「それはそれは、大阪の商売人で淀屋を知らんものはおらん。
ワシの方こそ、商売のコツを教えてもらわんとな」、是川が笑いながらいう。
「滅相もありません」、タエがいい、2人は談笑を始めた。

この女、案外、狡猾かもしれんな、ジツオウジはタエを見ながら思った。
ジツオウジは、タエが頭を下げ、礼を言うとき、笑みを浮かべたのを見逃さなかった。
土地が暴落するなら、不動産業であっても、土地取引から手を引けばいい話だ。
おそらく、この女の真の目的は、株取引だろう。

ジツオウジの予感は的中した。
タエは是川に師事すると、高値の土地を売り抜け、土地取引から手を引いた。
バブルが崩壊すると、不動産株を売って安く買い戻すことで、莫大な儲けをたたき出した。
やがて、タエは「難波の女帝」と呼ばれる相場師となった。

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