2021年12月24日金曜日

銘柄を明かさない理由R421 酒田の五法(後編)

第421話 酒田の五法(後編)

山形県酒田市には、稀代の相場師とされた本間宗久を輩出した本間本家があった。
長い歴史の中で、本家の周辺には多くの分家が存在していた。
また、北は北海道から南は大阪にも分家があった。
現在の分家筆頭は、「出羽の天狗」と呼ばれている本間宗矩(むねのり)だった。

酒田市郊外にある日本家屋で、宗矩は分家の跡継ぎとして生を受けた。
幼い頃から聡明だった宗矩は、周囲から神童と称えられた。
宗矩の家系は田畑を所有しており、代々、農業を営んでいた。
宗矩も幼い頃から、農業の手伝いをすることが多かった。

宗矩の地元の神社では毎年、秋になると祭礼が催されていた。
祭礼は神人一体の宴の場であり、そこでは歌舞である神楽(かぐら)が行われた。
夜、神楽笛の音色が流れる中、舞う神楽に宗矩は魅了された。
宗矩は神楽笛の手ほどきを受けると、神楽笛の吹き手として神楽に参加するようになった。

宗矩が13歳の誕生日を迎えたある日の夜。
深夜に目が覚めた宗矩は、枕元に立つ人らしき気配を感じた。
宗矩は枕元に立つ人らしき気配を確認しようと、起き上がろうとした。
だが、金縛りにあったようで、起き上がることができなかった。

枕元に立つ人らしき気配が何かをつぶやき始めた。
「三・・・川・・・空・・・三・・・法・・・田・・・なり」。
最初は不明瞭だった声が、次第にはっきりと聞こえてきた。
「三山」、「三川」、「三空」、「三兵」、「三法」、「これ、酒田の五法なり」。

はっきりと聞こえた後、唐突に声は止んだ。
静寂の中、枕元に立つ人らしき気配が一言告げた。
本間の荒行を成し遂げよ」
枕元に立つ人らしき気配は消え、宗矩は体を自由に動かせるようになった。

翌朝、起きてきた宗矩を見た両親と祖父母は、宗矩に違和感をもった。
母親が朝食を用意する間、父親と祖父母は無言で宗矩を見ていた。
朝食の準備が整い、食べ始めようとした両親と祖父母に、宗矩がいった。
「冬になったら、本間の荒行を成し遂げます」

本間本家の跡取りは、18歳の冬に「本間の荒行」を行う必要があった。
しかしながら、分家では年齢に関する定めはなく、「本間の荒行」を行う必要もなかった。
ましてや、13歳での「本間の荒行」は、前例がなく、両親と祖父母は反対した
宗矩は反対を押し切り、歴代最年少の13歳で「本間の荒行」を成し遂げた。

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