第424話 天狗の降臨(後編)
「最も重要な部分が欠落しとるって」、晃一は特許内容を受け取ると読み始めた。
「一定の割合で変動すれば、売買を行うようになっとるやん」、読み終わった晃一がいう。
「確かに、テングッドのルートAのロジックが記載されている。
だが、ルートBのロジックは記載されていない」、宗矩がいう。
「ルートBは普段は使わん、ルートAとは真逆のロジックやん」、晃一がいう。
「晃一、ルートBの起動条件を覚えているか」、宗矩がいう。
「ルートBを起動するには、あらかじめ設定したパスワードが必要・・・ま、まさか」
晃一はテングッドの前に坐ると、プログラム画面を表示した。
「ルートBを起動するパスワードが、いつものパスワードになっとる」、晃一がいう。
「開発の初期段階から、常にルートBが起動するようにしておいたんだ。
実は、ルートBこそが『酒田五法』をベースにした正のプログラムなんだ。
すまない、騙すつもりはなかったんだが、万が一のことを考えていた」、宗矩がいう。
「謝るのは俺の方や、助かったわ、ありがとうな、宗やん。
で、どないするんや、特許出した会社に何かするんか」、晃一がいう。
「何もしない、ルートAの特許なんぞくれてやる。
ルートAが普及すれば、ルートBは『人の行く裏に道あり花の山』になる」、宗矩がいう。
「テングッドの商標登録もしとるみたいやから、名前は変えなあかんやろ」、晃一がいう。
「改名か、オリジナルはこちらだとわかる名前にしたいな。
そうだ、テングッドを縮めたテング、漢字で『天狗』というのはどうだ」、宗矩がいう。
「異議な~し」、晃一がいい、宗矩と軽くこぶしを合わせると、笑みを浮かべた。
3日後、2人は「天狗」の特許を出願した。
出願した帰り道、「これで『天狗』の特許を出願できんようになったな」、晃一がいう。
「ああ、後はリベンジするだけ、お楽しみはこれからだ」、宗矩がいう。
立ち止まった2人は、軽くこぶしを合わせると、笑みを浮かべた。
数週間後、都内の会社が、ルートAのロジックを搭載した「テングッド」を発売した。
初期導入費用やメンテナンス費用が高額のため、購入者は限られていた。
だが、違法コピーなどにより、ルートAのロジックは広まっていった。
やがて、ルートAのロジックは、市場関係者の多くが知るところとなった。
「天狗ちゃん、今日も頑張ってや」、「おいおい、天狗も女かよ」
ルートAのロジックが普及する中、宗矩と晃一はルートBの「天狗」で相場に挑んだ。
「人の行く裏に道あり花の山」である「天狗」は連戦連勝だった。
宗矩と晃一は、大学生には不釣り合いな、多額の利益を手にすることに成功した。
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