第414話 難波の女帝(中編)
淀屋二代目本家のヨドヤ タエ。
彼女は淀屋を再興した淀屋二代目本家の長女として、この世に生を受けた。
彼女が生を受けた後、両親は跡取りとなる男の子を望んだ。
だが、両親の願いは叶わず、彼女は3人姉妹の長女となった。
長女のタエは、幼いころから、商才に富み、覇気も備えていた。
次女の松子、三女の珠代は、おとなしい控えめな性格だった。
淀屋二代目本家は、昭和になると、事業を小売業から不動産業に大きく転換していた。
全国各地の土地を買い取り、転売することで、巨額の財を築いていた。
成人して、実質上の跡取りとなったタエは、土地取引を推進した。
1980年代後半のバブル景気で、地価は右肩上がりで上昇を続けていた。
当時、強引に土地を買い漁り、転売で膨大な利益を上げる地上げ屋が台頭していた。
タエも、金銭に糸目を付けない買い取りで、土地取引を進めた。
あかん、このままやったら、いずれバブルは崩壊、地価も暴落や。
土地取引は地価が下がれば、どうしようもない。
地価が下がるのを、指をくわえて見とくしかない。
考えたタエは、一つの結論を出した。
地価が下がっても、儲けることができるのは何や。
地価が下がっても、儲けることができるのは、株や。
どない考えても、株の売りしかあらへん。
不動産株に金融株、バブルで高騰しとる株の売りや。
だが、タエには株式投資の経験がなかった。
タエは「最後の相場師」と呼ばれている是川銀蔵に教えを請いたいと思い、連絡した。
指定された大阪市中央区北浜のビルを訪れると、黒のスーツ姿の巨躯の男が出迎えた。
「面接会場はこちらです」、巨躯の男はタエを面接会場に案内した。
巨躯の男が、ある部屋の前で立ち止まると、軽くノックしてから、ドアを開けた。
「お入りください」、巨躯の男はタエに告げた。
タエが恐る恐る部屋に入ると、広い室内には椅子に座っている高齢の男性しかいなかった。
巨躯の男はドアを閉めると、高齢の男性の横に歩み寄った。
高齢の男性と巨躯の男性の威圧感に、タエは言葉を発することができなかった。
言葉を発することができないタエを見かねたのか、高齢の男性が言葉を発した。
「そんなに緊張せんでもええ、楽にせい、ワシは是川。
横におる図体がでかいのは、ジツオウジというワシの弟子じゃ」
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