第423話 天狗の降臨(中編)
都内の宗矩が住むワンルームマンション。
宗矩と晃一は、市場平均の倍以上のリターンをたたき出した十号機を見ていた。
「ようやく、できたな、宗やん」、「ああ、いよいよ実戦投入だな、晃一」
2人は軽くこぶしを合わせると、笑みを浮かべた。
株式投資のテクニカル理論に「エリオット波動」がある。
「エリオット波動」には、上昇5波動と下降3波動が存在するとされている。
上昇5波動は、上昇局面での上昇第1波→調整→上昇第2波→調整→上昇第3波の5つの波動。
下降3波動は、下降局面での下降第1波→戻し→下降第2波の3つの波動。
上昇局面、下降局面においても、波のように上下しながら推移するという理論である。
宗矩と晃一は、「エリオット波動」の波のような動きに着目した。
波の低いところで買い、波の高いところで売れば、倍のリターンが可能になる。
宗矩と晃一は、「エリオット波動」の考えを取り入れた自動売買システムを完成させた。
実戦投入された十号機は、市場平均の倍以上のリターンを出した。
その後も、十号機は市場平均の倍以上のリターンを出し続けた。
いつしか、十号機の呼び名は「テングッド(10 good)」に変わった。
「テングッドちゃん、今日も頑張ってや」、「おいおい、テングッドは女かよ」
羽振りがよくなった晃一の周りには、男女を問わず大勢の友達が寄って来た。
元々が社交的な性格の晃一は、様々なイベントを企画、人気者になっていった。
「宗やん、週末にクラブ貸し切って、オールするんやけど、参加せえへんか」
「賑やかなイベントは好きじゃない、わるいが遠慮しておくよ、晃一」
そんなある日、宗矩と晃一の元に内容証明郵便が届いた。
差出人は、聞いたことのない都内の会社だった。
2人の自動売買システムが、出願中の特許を侵害しているという内容だった。
内容証明郵便には、2人が侵害しているという出願中の特許内容も同封されていた。
「晃一、どういうことだ、誰かにテングッドのことを話したのか」
青ざめた顔の晃一に、宗矩が問いただした。
晃一は、友人たちにテングッドのロジックを教えたこと。
友人たちの誰かが、都内の会社に特許を出願させたのかもしれないと答えた。
「ま、まさか、こんなことになるとは・・・す、すまん、宗やん」
宗矩は、同封されている特許内容を丹念に読み始めた。
読み終わった宗矩は、笑みを浮かべると、晃一にいった。
「安心しろ、晃一、この特許は最も重要な部分が欠落している」
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