2021年12月31日金曜日

銘柄を明かさない理由R427 出羽の天狗(後編)

第427話 出羽の天狗(後編)

晃一の口座に謝礼を振り込んだ宗矩は、目を閉じると考え始めた。
淀屋初代本家十三代目のヨドヤコウヘイ、通称「浪花の相場師」。
大学在学中に、合コンの預り金を株式投資で増やすGCファンドを設立。
GCファンドで資産を増やすと、卒業後に資産運用会社YLコンサルタント」を起業。

起業に際し「YLコンサルタント」の取締役社長として、佐々木という男を採用。
名目上は佐々木が取締役社長だが、実質、ヨドヤコウヘイとの共同経営。
YLコンサルタント」の主な事業は、中小企業への融資など。
だが、低金利もしくは無利息であることから、主な収益は株式投資によるものだろう。

淀屋二代目本家のヨドヤタエ、通称「難波の女帝」。
若くして家業である不動産業を継ぎ、業績を伸ばした。
バブルで大きく儲け、崩壊前に高値で仕入れた土地を売り抜けることに成功。
バブル崩壊と同時に相場に参戦、不動産株などの売りで大きく儲けた。

大きく儲けたことで、ヨドヤタエは淀屋一族の中で、多大なる影響力を持つことになった。
後に、ヨドヤタエは売り方として、ある仕手戦を仕掛けるが、敗北。
仕手戦に敗北したことで、ヨドヤタエの影響力は低下。
仕手戦の間に全国の分家をまとめたヨドヤコウヘイが、地位を確固たるものにした

仕手戦をきっかけに、初代本家と二代目本家の確執が表面化したというところか
ヨドヤコウヘイとヨドヤタエは、一枚岩ではないと見るべきだろう
おそらく、影響力が低下したヨドヤタエは、今の状況が面白くないはず。
もし、ヨドヤタエをこちら側につけることができたら、勝ったも同然。

ヨドヤタエは、金には困っていないようなので、金では動かないだろう。
だが、人の子なので、何かしらの弱みはあるはずだ。
今ある情報では足りない、しかたない、晃一に追加調査を依頼するか。
宗矩は目を開けると、晃一への追加調査依頼メールを打ち始めた。

同じ頃、大阪難波のタワーマンション。
ヨドヤコウヘイの自宅は、「YLコンサルタント」のオフィスも兼ねていた。
取締役社長の佐々木がリビングにいると、テレビインターホンが鳴った。
テレビインターホンを見ると、和服姿の「難波の女帝」ことヨドヤタエが映っていた。

「これはこれは、タエ様、どうされました」、佐々木がいう。
「近くまで来たんで、コウヘイの顔でも見たろかな思うて」、タエがいう。
「あいにくですが、東京へ出張しており、ご不在です」、佐々木がいう。
「おらへんのやったら帰るわ、さっきからくしゃみも止まらんしな」、タエがいった。

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