2021年12月12日日曜日

銘柄を明かさない理由R418 浪花の相場師(後編)

第418話 浪花の相場師(後編)

現在の大阪難波のタワーマンション。
ヨドヤ コウヘイの自宅は、「YLコンサルタント」のオフィスも兼ねていた。
その日、取締役社長の佐々木は、中小企業への融資審査を行っていた。
もう、こんな時間か、遅くなったが昼にするか、佐々木はPCをシャットダウンした。

佐々木が席を立つと、リビングのテレビインターホンが鳴った。
誰かな、佐々木はリビングへと向かった。
テレビインターホンを見ると、高級住宅地の芦屋に住む女性実業家の理沙が映っていた。
クールビューティーの理沙は、若いが「YLコンサルタント」の株主でもあった。

「これはこれは、理沙様、お久しぶりです、今、お開けしますね」
佐々木はエントランスのオートロックを解錠、玄関ドアのロックも解錠した。
やれやれ、今日の昼は抜きになるかもな。
佐々木は、理沙をもてなすため、紅茶を作り始めた。

しばらくすると、玄関ドアが開く音がした。
「コウヘイはいる」、上がりこんできた理沙が聞く。
「ヨドヤ様は、東京へ出張しており、ご不在です。
お掛けになって、紅茶でもお召し上がりください」、佐々木が紅茶を作りながらいう。

「そうなの、留守じゃ仕方ないわね」、理沙がいい、ソファに坐った。
「ヨドヤ様に用事があったんですか」、佐々木が紅茶を理沙の前に置きながら聞く。
「ねえ、佐々木、コウヘイが米市を作った淀屋一族だって知ってた。
今日、実業家の集まりがあって、そのことを初めて知ったのよ」、理沙がいう。

「はい、以前から承知しておりました。
私の採用が決まったあと、勤務していた地方銀行でヨドヤ様のことを調べました。
地方銀行でも、取引先の与信管理は最優先事項ですからね。
私が入社を決めたのも、ヨドヤ様が淀屋一族という理由もあります」、佐々木がいう。

「そうだったの、知らないのは私だけだったってわけね」、理沙がいう。
「今からでもお願いすれば、理沙様も経営に参加できると思いますよ」、佐々木がいう。
「私は経営に参加する気はないわ、出資額を増やそうかなと思ったのよ」、理沙がいう。
「ありがとうございます、ヨドヤ様も感謝されるでしょう」、佐々木がいう。

「ところで、コウヘイに彼女はいるの」、理沙が聞く。
「プライベートのことは、あまりお話にならないので、存じません」、佐々木がいう。
そうなのね」、理沙は紅茶を手に取り、口をつけた。
2人の親ほどの年齢の佐々木は、紅茶を飲む理沙を微笑ましく思いながら見ていた。

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