2026年5月28日木曜日

【小説】神崎教授とAIの事件ファイル:EP32 OVERLAYの語源

【AI(人工知能)による作品紹介】
人間とAIのバディに解けない謎はない。日本を襲うハッキングテロ。崩壊する医療、迫る停電のタイムリミット。未曾有の国家危機に立ち向かうのは、神崎教授と亡き妻の思考を学習したAIだった。緻密な伏線とハイスピードな展開で魅せる、新時代のサイバーミステリー!
【登場人物】
・神崎零壱(かんざきれいいち)
元東京中央技術大学 情報工学科の教授。日本の情報工学の第一人者で、インターネットの普及に貢献した。2020年に定年退職、現在は年金生活。子どもは独立、妻に先立たれてからは、東京都北区にある築40年以上の二階建て住宅で、妻の思考を学習させたAI(人工知能)と暮らしている。NCOによるコード名はM2。
・神崎悠季(かんざきゆき)
神崎零壱の妻で結婚してからは専業主婦だった。2015年にアルツハイマーを発症。東京中央技術大学病院のアルツハイマー新薬研究プロジェクトの治験に参加するが、治験途中に亡くなる。看護師が気づけなかった投薬装置の故障による過剰投薬が原因と推測されたが、因果関係は不明。
・AI(YUKI)
神崎零壱が神崎悠季の思考を学習させたAI。神崎零壱のことを誰よりも把握している。自宅にかかってきた電話に音声で対応、電話をかけることもできる。受信したメールに対する返信を作成して送信できるなどの機能も搭載している。
・佐藤波流(さとうはる)
東京中央技術大学 情報工学科 2020年卒の神崎教授の教え子。警視庁 サイバー犯罪対策課。NCOによるコード名はK2。
・上条雷人(かみじょうらいと)
東京中央技術大学 情報工学科 2010年卒の神崎教授の教え子。元米国IT企業「ダーウィンスペース」日本法人の社員。「ダークマップ」管理人。サイバーテロを計画し実行する。
・華喜多美代子(はなきたみよこ)
元東京中央技術大学病院の看護師。神崎悠季を故意に死亡させたと、世間からバッシングされ、退職を余儀なくされる。上条雷人とは異父兄妹。
・雅(みやび)
東京中央技術大学 情報工学科 2010年卒の神崎教授の教え子。国家サイバー統括室(NCO)。本名は美矢部(みやべ)。
・佐倉井(さくらい)
東京中央技術大学 情報工学科 2010年卒の神崎教授の教え子。防衛省 情報本部 特殊情報分析室。NCOによるコード名はJ1。
・高柳(たかやなぎ)
副業でハッキングをしている会社員。NCOによるコード名はM1。
・鳩山(はとやま)
東京都の総務局 文書管理課の職員。NCOによるコード名はT1。

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EP32 OVERLAYの語源

「T1は、東京中央技術大学病院へ転院させるよう手配済です。
託していたハガキは奪われましたが、暗号化しているので読み込めないはずです。
M1のミッション結果は、直接、M1からYUKIに伝えてもらうようにします。
すでに東京中央技術大学病院に到着しているはずです」、佐倉井がいう。

「T1を轢き逃げした犯人やM1を拘束した犯人は捕まったのかね」、神崎がいう。
「轢き逃げ犯は捕まっていませんが、拘束した男たちは捕まっています」、佐倉井がいう。
「これだけ妨害されたということは、情報が漏れていたのかね」、神崎がいう。
「そのようです。すでに内通者数名の身柄を確保しています」、佐倉井がいう。

「先ほど、上条単独ではなく、組織的犯行の可能性があるといった。
T1やM1を襲った犯人が、その組織の可能性があるのか」、神崎がいう。
「T1やM1を襲った犯人は、その組織ではなく、他国の関係者だと思います。
公的機関の内通者から得た情報を元に、襲った可能性が高いです」、佐倉井がいう。

「そう思う根拠とかはあるのかね」、神崎がいう。
「根拠は、上条が極めて合理的な思考を持っているからです。
上条なら、他国と協力したりすることはしないと思います」、佐倉井がいう。
「じゃあ、上条が協力するとしたら、どんな組織が考えられる」、神崎がいう。

「上条は予告動画に『OVERLAY』というワードを使っています。
おそらく、このワードに共感する者の集まりではないかと思います」、佐倉井がいう。
セダンが首都中央環状線を降りると、警察が検問をしており、車列ができていた。
セダンも止められたが、運転手が書類を見せると、そのまま進むよういわれた。

「『OVERLAY』は、ゲルマン語派を由来とする2つの古い英語が結びついた言葉だ。
『OVER』は古い英語の『ofer』で、『上方に』や『空間的に超えて』が語源。
『LAY」は古い英語の『leccan』や『licgan』で、『横たわる』や『平らに置く』が語源。
つまり、語源的な原義は『真上に、別のものを平らに広げて置く』という物理的な動作だ。

今は『下のものを消さずに、上に透明または半透明の層を重ねる』という意味で使われる。
ITやプログラミングでは、必要な部分だけを実行する技術が『オーバーレイ構造』になる。
上条は、『積層』や『共存』を意味する言葉を、『上書き』と呼んでいる。
このことだけでも、上条が合理的な思考を持っていることがわかる。

上条が最初に提出した卒業論文には、『OVERLAY』というワードがあった。
訂正するよう、いったところ、上条が納得できないといってきたことがある。
結局、訂正してもらったが、訂正させた理由は何だと思う」、神崎がいう。
「データや考察が足りなかったとかですか」、佐倉井がいう。

「反対だ。過不足のないデータで、論理的な考察がなされていた」、神崎がいう。
「それなのに訂正をさせたのは、なぜですか」、佐倉井がいう。
「テーマが『日本社会のOVERLAY』だったからだよ」
車内が静まり返る中、神崎は続けた。

「私が今回の事件を知ったのは、警視庁のK2、佐藤くんからの相談だった。
相談の中で、犯人が大場玲という偽名を使っていると聞いた。
聞いた瞬間、上条の訂正前の卒業論文が頭に浮かんだ。
帰宅して、卒業論文を読み返すと、今回の事件を予期させる内容だった」、神崎がいう。

「これまでの事件の経過は、卒業論文と同じですか」、佐倉井がいう。
「合法か、非合法かという違いはあるが、内容的には、概ね同じだ」、神崎がいう。
「卒業論文では『日本社会のOVERLAY』は達成されるんですか」、佐倉井がいう。
「もし、卒業論文と同じことが行われれば、達成される」、神崎がいう。

「その卒業論文があるのは、ご自宅ですか」、佐倉井がいう。
「YUKIのデータベースにあるので、病院に着けば、詳細内容を確認できる」
続けて、神崎は卒業論文の要約を話し始めた。
セダンの進行方向に、東京中央技術大学病院が見えてきた。
※本作に登場する手法は防犯上の観点から一部改変しています。

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