2026年5月5日火曜日

【小説】神崎教授とAIの事件ファイル:EP9 侵食される社会

【内容】
神崎教授とAIが事件を解決していくミステリー小説。
【登場人物】
・神崎零壱(かんざきれいいち):元東京中央技術大学 情報工学科の教授。日本の情報工学の第一人者で、インターネットの普及に貢献した。2020年に定年退職、現在は年金生活。子どもは独立、妻に先立たれてからは、東京都北区にある築40年以上の二階建て住宅で、妻の思考を学習させたAI(人工知能)と暮らしている。
・神崎悠季(かんざきゆき):神崎零壱の妻で結婚してからは専業主婦だった。2015年にアルツハイマーを発症。東京中央技術大学病院のアルツハイマー新薬研究プロジェクトの治験に参加するが、治験途中に亡くなる。看護師が気づけなかった投薬装置の故障による過剰投薬が原因と推測されたが、因果関係は不明。
・AI(YUKI):神崎零壱が神崎悠季の思考を学習させたAI。神崎零壱のことを誰よりも把握している。自宅にかかってきた電話に音声で対応、電話をかけることもできる。受信したメールに対する返信を作成して送信できるなどの機能も搭載している。
・佐藤波流(さとうはる):警視庁 サイバー犯罪対策課。東京中央技術大学 情報工学科 2020年卒の神崎教授の教え子。
・上条雷人(かみじょうらいと):元米国IT企業「ダーウィンスペース」日本法人の社員。東京中央技術大学 情報工学科2010年卒の神崎教授の教え子。サイバーテロを計画し実行する。

--------------------------------------------------------------------------
EP9 侵食される社会

東京都北区の住宅街にある神崎の自宅。
帰宅した神崎が書斎に入ると、人感センサーが感知、モニターが明るくなった。
「お帰りなさい」、AIのYUKIがいう。
「かわったことはなかったか」、神崎がいう。

「渋谷のビルの外壁の大きなスプレーアートがニュースになってたわ」、YUKIがいう。
「どんなスプレーアートだ」、神崎がいう。
モニターに、赤と黒のスプレーで描かれた躍動感のある「OVERLAY」が表示された。
「最近、物騒な事件が増えているけど、関係があるのかしら」、YUKIがいう。

-----------------------------------------------------------------------------
スレタイ:【悲報】ワイらの将来、ガチで詰むwwwww

124:名無しさん
結局、上が居座り続けてる限り、俺たちは一生「下層データ」のままだぞ。
125:名無しさん
利権まみれの老害OSをいくらアップデートしたところで、バグが消えるわけないだろ。126:名無しさん
だったら初期化するか?
127:名無しさん
甘い。消去じゃ足りない。必要なのは「日本社会のオーバーレイ(上書き)」だ。既存の腐ったレイヤーを、俺たちの「新しい現実(ロジック)」で完全に塗りつぶすんだよ。
128:名無しさん
  127
  オーバーレイ……それ、いいな。ちょっとゾクっとした。

-----------------------------------------------------------------------------

新橋の居酒屋。
ビールジョッキを叩きつけるように置いた会社員が、隣の同期に吐き捨てた。
「さっきの部長、『俺たちの若い頃は~』って。いつまで昭和を引きずってんだよ」
「あの世代が退かない限り、俺たちの席はないからな」
「……いっそ、この会社ごとオーバーレイしてやりたいよ」
同期は一瞬、ぎょっとしたが、すぐに自嘲気味に笑った。
「お前、ネットの見すぎだって」

原宿のカフェ。
「ねえ、この写真、加工しすぎて誰だかわかんなくない?」
「いいじゃん、オーバーレイして別人になっちゃお。今の自分、マジでアプデ必要だし」
彼女たちは、その言葉をポジティブな流行語として使い始めていた。

新宿の公園。
圧迫面接でボロボロになった就活生が、公園のベンチでうなだれていた。
隣に座っていた見知らぬ男がいった。
「大変だね。でも、あと少しの辛抱だよ」
男は、就活生の耳元に口を寄せると、囁いた。
「もうすぐ、この社会をオーバーレイするから。君の世代にふさわしい社会になるよ」
男が立ち去った後、就活生は熱に浮かされたような高揚感を感じていた。

0 件のコメント:

コメントを投稿