2026年5月24日日曜日

【小説】神崎教授とAIの事件ファイル:EP28 奪われたQRコード

【AI(人工知能)による作品紹介】
人間とAIのバディに解けない謎はない。日本を襲うハッキングテロ。崩壊する医療、迫る停電のタイムリミット。未曾有の国家危機に立ち向かうのは、神崎教授と亡き妻の思考を学習したAIだった。緻密な伏線とハイスピードな展開で魅せる、新時代のサイバーミステリー!
【登場人物】
・神崎零壱(かんざきれいいち)
元東京中央技術大学 情報工学科の教授。日本の情報工学の第一人者で、インターネットの普及に貢献した。2020年に定年退職、現在は年金生活。子どもは独立、妻に先立たれてからは、東京都北区にある築40年以上の二階建て住宅で、妻の思考を学習させたAI(人工知能)と暮らしている。
・神崎悠季(かんざきゆき)
神崎零壱の妻で結婚してからは専業主婦だった。2015年にアルツハイマーを発症。東京中央技術大学病院のアルツハイマー新薬研究プロジェクトの治験に参加するが、治験途中に亡くなる。看護師が気づけなかった投薬装置の故障による過剰投薬が原因と推測されたが、因果関係は不明。
・AI(YUKI)
神崎零壱が神崎悠季の思考を学習させたAI。神崎零壱のことを誰よりも把握している。自宅にかかってきた電話に音声で対応、電話をかけることもできる。受信したメールに対する返信を作成して送信できるなどの機能も搭載している。
・華喜多美代子(はなきたみよこ)
元東京中央技術大学病院の看護師。神崎悠季を故意に死亡させたと、世間からバッシングされ、退職を余儀なくされる。
・久理田咲(くりたさき)
東京中央技術大学病院の看護師。
・佐藤波流(さとうはる)
東京中央技術大学 情報工学科 2020年卒の神崎教授の教え子。警視庁 サイバー犯罪対策課。
・上条雷人(かみじょうらいと)
東京中央技術大学 情報工学科 2010年卒の神崎教授の教え子。元米国IT企業「ダーウィンスペース」日本法人の社員。「ダークマップ」管理人。サイバーテロを計画し実行する。
・雅(みやび)
国家サイバー統括室。
・高柳(たかやなぎ)
副業でハッキングをしている会社員。コード名はM1。
・鳩山(はとやま)
東京都の総務局 文書管理課の職員。コード名はT1。

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EP28 奪われたQRコード

東京都北区の駅前商店街。
買い物帰りの神崎は、商店街の中を歩いていた。
いつもよく行く昭和レトロな喫茶店『バロック』の前まで来ると、立ち止まった。
立ち止まったのは、店の雰囲気が変わっていたからだった。

入口横のケースの食品サンプルは撤去され、小型のモニターが置かれていた。
モニターには鮮やかな色のメニュー画像が値段とともに表示されていた。
雰囲気が変わっていると思ったら、デジタル化したのか。
確か、ペガサス電子の木下くんが売り込みしているって言ってたな。

コーヒーが飲みたくなった神崎は店の中へ入った。
店の中は、いつも通り、空いている席が多かった。
店員にホットコーヒーを注文すると、新聞を手に取り、奥のテーブル席に向かった。
席に座ると、店員がホットコーヒーを運んできて、テーブルに置いた。

新聞の社会面を開くと、その多くが大場玲こと上条の事件に関係する記事だった。
都内で防災用品を始めとする生活用品が品薄になっていることを伝える記事。
一時的に東京から避難する人が増えていることを伝える記事もあった。
そういえば、いつにも増して、シャッターを閉めている店が多かったな、神崎は思った。

あらためて、店内を見回すと、いつもより客が少ないような気がした。
多くが高齢者で、ほとんどが1人だった。
記事の中には、「停電まであと3日。そのとき起こること」という見出しの記事もあった。
停電になると使えなくなるものや、不足するものが解説されている記事だった。

M1のミッションが終われば、自宅の郵便受けにハガキが届く。
そのハガキにあるQRコードをYUKIに読み取らせ、海外のサーバーをスキャンさせる。
見つけた機密ファイルをAES-256で暗号化、消去させる。
消去が終われば、緊急連絡先へ連絡、上条を逮捕してもらう。

上条を逮捕してもらうためには、遅くとも、明後日までにはハガキが必要だ。
いや、余裕を持って進めるなら、早ければ早いほどいい。
家を出るときにハガキはなかったが、帰ったら届いているかもしれない。
しばらく寛いだあと、神崎は店を出て、家路についた。

東京都北区の住宅街。
すっかり日が落ちて暗くなった住宅街を、コード名T1の鳩山が歩いていた。
少子高齢化により、子どもの数が減り、空き家も多くなっている。
街灯はあるが、この時間に出歩いている人はいなかった。

鳩山が歩いているのは、内閣府で預かったハガキをM2の家の郵便受けに入れるため。
仕事が終わったあと、通勤電車に乗り、自宅の最寄り駅まで帰ってきた。
駅の改札を出ると、自宅とは反対方向のM2の家へ向かった。
M2の住所を知ってから調べたが、M2は神崎零壱という名前であることがわかった。

神崎氏は、元東京中央技術大学 情報工学科の教授。
日本の情報工学の第一人者で、インターネットの普及に貢献したらしい。
ハガキのQRコードには、神崎氏にしかできないミッションが書いてあるんだろうな。
どこにQRコードがあるのかわからないが、神崎氏ならわかるんだろうな、鳩山は思った。

駅から離れるにつれ、人通りもなくなり、街灯の数も少なくなった。
あの角を曲がれば、神崎氏の家が見えるはずだ。
家に着いたら、郵便受けにハガキを入れる。
ハガキを入れれば、ミッションは終わりなので、自宅に帰れる。

しかし、こんなスパイ映画みたいなことをするなんて、思いもしなかったな。
いつの日か、嫁や子どもたちに自慢できる日が来るといいな、鳩山は思った。
鳩山は気づいていなかったが、駅から黒の軽ワゴンの電気自動車が後をつけていた。
黒の軽ワゴンはゆっくりと動いては停まり、停まっては動いていた。

鳩山の前の路面が明るくなった。
次の瞬間、鈍い衝突音がし、鳩山の身体は宙を舞っていた。
肩から路面に落ちた鳩山の横に持っていたカバンが落ちた。
黒の軽ワゴンが停まり、運転席のドアが開いて、黒ずくめの男が降りてきた。

黒の目出し帽をかぶっているため、男の表情をうかがい知ることはできなかった。
男は落ちていたカバンを拾い上げると、車に戻ろうとした。
「…か…返せ…」、男の足元から声がした。
足元を見ると、うつぶせに倒れた鳩山が顔を上げ、右手でズボンを掴んでいた。

男は無言で足を振り上げ、鳩山の手を振り払った。
黒の軽ワゴンに乗り込んだ男は、ドアを閉めると、その場から走り去った。
テールライトを見ていた鳩山は目を閉じると、顔を路面につけた。
物音を聞いた家の玄関の明かりが点き、住人が出てきた。
【QRコード(QR Code)】
マトリックス型二次元コードの一種。データ読み取りや店頭決済用コードとして世界に普及している。
【AES-256】
256ビットの鍵を使用する最高強度の共通鍵暗号方式。米国政府や世界中の金融機関が機密データ保護に採用する国際標準規格。スーパーコンピューターでも解読に数百兆年以上かかるとされる。総当たり攻撃(ブルートフォース攻撃)に対して実質的に免疫がある。

※本作に登場する手法は防犯上の観点から一部改変しています。

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