第442話 天狗の秘密(後編)
ジョウシマとアマネが定食屋で再会した翌週の月曜日。
東京証券取引所では前場の取引が開始されていた。
都内にある大学の研究室では、白衣を着た眼鏡の若い男がモニターの前に座っていた。
やはり、思った通りだ、若い男は眼鏡を外すと、指でまぶたをマッサージした。
そのとき、研究室のドアがノックされた。
「どうぞ」、眼鏡をかけなおした若い男がいうと、1人の女性がドアを開けて入ってきた。
「おはよう、BOY♡」、入ってきたストレートのロングヘアで黒スーツ姿の女性がいう。
女性は「無敗のキング」ことジツオウジコウゾウの門下生、キサラギミレイだった。
「おはようございます、ウィッグのお、姉さん」、眼鏡の若い男がいう。
「ま~た、おばさんっていいそうになったわね」、ミレイが睨みながら椅子に座った。
「い、いや、お嬢さまにしようかなと」、眼鏡の若い男が慌てていう。
若い男も「無敗のキング」の門下生で、21世紀少年と呼ばれていたキミシマユウトだった。
「初めて会った頃は、礼儀正しい中学生だったのにね」、ミレイが足を組みながらいう。
「失礼な、今も礼儀正しいですよ」、キミシマがいう。
「ところで、天狗ちゃんの精度確認は終わった」、ミレイがいう。
「先ほど最終確認が終わりました」、キミシマがいう。
「で、精度はどうだったの」、ミレイがいう。
「90%近い確率で、±1%での終値の予測が可能です」、キミシマがいう。
「すごいじゃない、どうして、そんなに高い精度なの」、ミレイがいう。
キミシマは席を立つと、ホワイトボードにいくつかのローソク足を描いた。
「高い精度は、膨大な検証に基づいたロジックにあると思います。
一般的なテクニカルでは、このようなローソク足の並びから、株価の推移を予測します。
例えば、陽線で下髭をつけたローソク足が連続すれば、上昇するとかいうやつです。
『天狗』で用いられている変数は、この始値と終値、上髭と下髭の長さ、出来高です。
予測するのに必要な変数は、少なくとも200日前までの変数です。
『天狗』は、リアルタイムのデータから予測を変化させます。
例えば、始値が1,000円であれば、陽線となり、終値は1,050円。
始値が1,050円であれば、陰線となり、終値は1,000円という具合です」、キミシマがいう。
「『無敗のキング』のテクニカル基礎編みたいなロジックね」、ミレイがいう。
「ご指摘の通り、『天狗』のロジックは『無敗のキング』のテクニカル基礎編です。
通常、経験則とされていることを、可視化したものともいえます。
いずれにしても、私たちにとっては特別なものではありません」、キミシマがいった。
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