2022年1月19日水曜日

銘柄を明かさない理由R434 三猿と呼ばれた男(前編)

第434話 三猿と呼ばれた男(前編)

大阪市中央区北浜の裏通りにある雑居ビルの地下にある「BAR Three monkeys」
「三猿の丑田」と呼ばれた相場師の丑田春樹は、カクテルが垂れた床の清掃を終えた。
店の時計を確認すると、ヨドヤタエが帰ってから、30分も経っていなかった。
春樹はスマホを取り出すと、東京にいる息子の晃一に電話をかけた。

コール音がすると、すぐに繋がった。
「晃一か、今、電話大丈夫か」、春樹がいう。
「さっき、家に帰ってきたとこや、親父から電話って珍しいな」、晃一がいう。
2人は、お互いの近況について、話した。

「ところで、話は変わるが、確認したいことがある」春樹がいう。
「何や、何や、そんな聞き方されたら怖いがな」、晃一がいう。
「ヨドヤタエのことを調べたのか」春樹がいうと、晃一が息をのむ気配がした。
「し、調べたけど、何で親父が知ってんねん」、晃一がいう。

「そうか、ならいい、じゃあな、仕事がんばれよ」春樹がいう。
「ちょ、ちょっと、詳しいことは聞けへんのかいな」晃一がいう。
「お前は私利私欲で動く男じゃない、何かしらの事情があったんだろう」春樹がいう。
ヨドヤタエが親父に何かしたんか」晃一がいう。

「何もされていないので心配するな、お前が調査していたという噂を聞いたので確認だよ。
ヨドヤタエは、昔からの知り合いなんだ」春樹がいう。
「ホンマに何もなかったんか」、晃一がいう。
「人の心配するヒマがあったら、自分の心配しろ、じゃあな」、春樹は通話を終えた。

淀屋二代目本家のヨドヤタエか。
若くに家業である不動産業を継ぐと、急激に業績を伸ばした。
バブルの時には、高値で仕入れていた土地を、誰よりも早くに売り抜けた。
バブルが崩壊すると相場に参戦、空売りで大儲けした、通称「難波の女帝」。

大坂堂島の相場師だった牛田権三郎翁の一族である丑田と淀屋。
両家は、適度な距離を保ちながら、付き合ってきた。
だが、宣戦布告されたからには、今までの関係はなかったことにせざるを得ない。
やるからには、完膚なきまでに叩き潰すまでだ。

春樹はスマホに登録している番号に電話すると、出た相手に話し始めた。
「夜分に恐れ入ります、丑田です、今、お時間大丈夫でしょうか」
「ありがとうございます、できるだけ早くに、お伝えしたいことがあります。
明日、ご都合のよい時間をお教えいただけないでしょうか」

0 件のコメント:

コメントを投稿