第430話 素行調査(後編)
ジョウシマが鈴木と名乗る銀縁眼鏡の細身の男に声をかけられた2時間後。
ジョウシマは、難波のシティホテルにあるラウンジの個室にいた。
「19時に、ラウンジの個室に、ヨドヤタエの友達を伺わせます」
個室は、ヨドヤタエの友達との待ち合わせに、鈴木が指定した場所だった。
そろそろ約束の時間だな、夜景を眺めながら、ジョウシマは思った。
軽いノックの音がし、個室に入るドアが開いた。
入って来たのは、鈴木と高級そうな和服を着た年配の女性だった。
鈴木がジョウシマの向かいにある椅子を引くと、和服を着た女性が腰掛けた。
「灰皿があらへんやないの、すぐに持ってきいや」
立ったままの鈴木に、和服を着た女性がすかさずいう。
個室の外へ出た鈴木が灰皿を持って戻ってくると、テーブルにタバコの箱と灰皿を置いた。
和服を着た女性は、箱からタバコを抜き出すと、鈴木が差し出したライターの火を点けた。
火を点けたタバコを吸いながら、和服を着た女性はジョウシマを見ていた。
横で立ったままの鈴木も、ジョウシマを見ていた。
「ウチの友達探してどうするつもりや、答えによってはただじゃすまへんで」
和服を着た女性、ヨドヤタエが吸い終わったタバコを灰皿に押しつけながらいう。
「友達を探していたのは、あなたに会うためです。
得体のしれない私が友達を探していれば、あなたにお会いできると思いました。
初めまして、東京の調査会社から来たジョウシマと申します」
ジョウシマが取り出した名刺を、ヨドヤタエの前にすべらせながらいう。
「東京の調査会社が何の用や」、名刺をチラ見したヨドヤタエがいう。
「実は、ある方から、あなたの弱みを調べて欲しいと頼まれました。
あなたの弱みをお教えいただけますでしょうか」、ジョウシマがいう。
「あんた、調査会社やろ、普通は本人に聞いたりせえへんやろ」、ヨドヤタエがいう。
「普通はそうかもしれませんが、これが私流のやり方です」、ジョウシマがいう。
「あんたはアホか、もし弱みがあったとしても教える訳あらへんやろ」
ヨドヤタエがいい、個室の中に緊張が走った。
「ですよね、調査へのご協力ありがとうございました」、ジョウシマはいうと席を立った。
「ちょっと、あんた、どこ行くんや」、ヨドヤタエがいう。
「調査が終わったので帰ろうかと」、ジョウシマがいう。
「まあ、待ちいな、こっちはいろいろ聞きたいことがあるんや」、ヨドヤタエがいう。
ここからが本当の調査だ、弱みを聞き出してやる、ジョウシマは思った。
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