第433話 宣戦布告(後編)
ジョウシマが大阪から戻った2週間後の夕方。
大阪市中央区北浜の裏通りにある雑居ビルの地下から、年配の男が上がってきた。
黒シャツとジーンズ姿の年配の男は、頭にバンダナを巻き、口髭をたくわえていた。
年配の男は、入口にある看板「BAR Three monkeys」の電源を入れると、地下へ降りた。
陽が落ちて暗くなると、1台の黒塗りの高級車が看板の前で停まった。
助手席から降りてきた銀縁眼鏡の男が、後部座席のドアを開けた。
後部座席から、高級そうな和服を着たヨドヤタエが降り立った。
「何時にお迎えにあがりましょうか」、銀縁眼鏡の男、鈴木がいう。
「宣戦布告やさかい、10分もかからんやろ」、ヨドヤタエがいう。
「かしこまりました、お気をつけて」、鈴木は地下へと降りるヨドヤタエを見送った。
地下への階段を降りたヨドヤタエは「Three monkeys」の前で立ち止まった。
変わってへんな、ヨドヤタエはところどころ塗料の剝げた木製のドアを開けた。
カウンター席のみの「Three monkeys」の店内には、客の姿はなかった。
「いらっしゃいませ」、カウンター奥の年配の男がいう。
ヨドヤタエは、入口に近いカウンター席に座った。
「ご注文は」、年配の男が聞き、「昔、頼んでたやつや」、ヨドヤタエが答える。
年配の男は慣れた手つきでカクテルを作ると、ヨドヤタエの前に置いた。
「久しぶりやな、丑田(うしだ)はん」、ヨドヤタエがいう。
「お久しぶりです、ヨドヤ様」、年配の男、丑田がいう。
「今日は、あんたに宣戦布告しに来たんや」、ヨドヤタエがいう。
「宣戦布告とは」、怪訝な顔をした丑田がいう。
「とぼけんでもええ、あんたんとこに晃一いう倅(せがれ)がおるやろ。
晃一が、ウチのことを、こそこそと探っとるんや」、ヨドヤタエがいう。
「はて、仰ることがわかりかねますが」、丑田がいう。
「わからんのやったら、陰でこそこそしとる卑怯者の晃一に聞いたらええやろ」
ヨドヤタエはグラスを手に取ると、カクテルを床へ垂らし始めた。
丑田は無表情なまま、ヨドヤタエを見ていた。
「あんたが大株主になっとる会社に仕掛けたるからな」、ヨドヤタエがいう。
「晃一という倅はおりますが、卑怯者呼ばわりされるような倅はおりません。
理不尽な宣戦布告ですが、父親として受けて立ちましょう」、丑田が無表情なままいう。
「それでこそ、『三猿(さんえん)の丑田』と呼ばれた相場師の丑田春樹や」
ヨドヤタエはカウンターに代金を叩きつけると、「Three monkeys」を出て行った。
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