第234話 世界恐慌、終わりの始まり(前編)
東京都中央区の日本橋のすぐ近くに、日本一の株屋の本社があった。
数ヶ月前、大阪支店長の村野が取締役に抜擢された。
過去に例のない20人抜きの人事で、歴代の取締役の中では最年少だった。
その日、本社の会議室ではある会議が開かれていた。
会議室では、取締役兼大阪支店長の村野が、役員から報告を受けていた。
肩書きは平取締役だが、村野は事実上の最高責任者だった。
「以上のように、株式市場からの資金引上げは計画通りに進んでいます」
役員の木本がスライドの説明を終え、席に戻った。
「ほんで、ベイビーの居場所はわかったんか」
村野が、居並ぶ役員を見回していう。
「FBIがベイビーのサーバーを破壊してから、ベイビーの居場所はわかっていません」
役員の木本がいう。
「ベイビーは、すでにこの世にいないのではありませんか。
これ以上、オペレーションBに費用をかける必要はないかと」、役員の今野がいう。
「確かに、オペレーションBに費やしている金額は結構な額になります。
このままだと、当社の利益を圧迫することになります」、役員の木本がいう。
「株高の儲け時に資金を引き上げて、いないかもしれないベイビーに金を使う。
ベイビーがいなかった場合、経営責任が問われますよ」、役員の今野がいう。
「口を慎め、誰に向かって、いっているのかわかっているのか」
代表執行役社長グループCEOが、今野を叱責する。
「私は本当のことをいったまでです。
会社のことを思えばの発言ですが、お気に障ったならお許しを」、役員の今野がいう。
「ほんで、ベイビーの居場所はいつわかるんや」
驚いた顔をした役員たちを見回して、村野がいう。
「なんで、この株高をおかしいと思わへんのや。
これだけの株高になる要素があるか、もし、あるんやったら教えてくれや。
今まで相場を見てきたが、こんな株高になる要素のない中での株高は初めてや。
何でこんな株高になったんか、誰か教えてくれるか」、村野がいう。
会議室は静まり返り、誰も言葉を発しなかった。
「ええか、オペレーションBは続行や。
この株高はベイビーの仕業や、何としてでもベイビーの居場所を突き止めるんや」
野村財閥二代目、野村徳七の血を受け継ぐ男、村野こと野村は不敵な笑みを浮かべた。
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