第217話 恐るべきベイビーの計画(中編)
株には、現物取引と信用取引という2つの取引方法がある。
現物取引は、手持ちの資金の範囲で、取引を行なう。
信用取引は、手持ちの資金を担保にすることで、自己資金以上の取引ができる。
証券会社に委託保証金を差し入れることで、委託保証金の約3.3倍の取引まで可能となる。
現物取引では、安く買って高く売る、「買い」しかできない。
だが、信用取引では、高く売って安く買い戻す、「売り」ができる。
「買い」の場合、最悪でも、投資金額がゼロになるだけである。
だが、「売り」の場合、売った後に株価が騰がり続ければ、損失は青天井となる。
「買いは家まで、売りは命まで」という言葉がある。
過去に「売り」による青天井の損失で、命を絶った相場師は少なからず存在する。
筆者は信用取引をしたことはなく、これからもすることはない。
全てを失い、相場から退場したくないのであれば、決して信用取引をしてはならない。
株式投資とは企業に出資、すなわち金を貸すことである。
金を貸した見返りに株主となり、出資した額に応じた配当を受領する。
信用取引では、証券会社に金を借りて、株式取引を行なう。
期限までに返済しなくてはならず、証券会社にとってのいいカモでしかない。
21世紀少年は、自室で書面を手にしたまま、動くことができなかった。
ワールド株式投資セミナーの参加者に、信用取引口座を開設させる。
セミナーの参加者が信用取引で同じ銘柄を買えば、相場はバブル状態になる。
セミナーは世界各国で開催されている、すなわち全市場でバブル状態になる。
「The market is driven by fear and greed」というウォール街の相場格言がある。
意味は、「市場は恐怖と欲望によって動かされる」だ。
上昇相場では、人々は少しでも多く儲けたいという欲望にかられ、買い向かう。
ところが、下落相場では、資産の減少に人々は恐怖を覚え、相場は暴落する。
ベイビーは、意図的に世界各国の市場をバブル状態にするつもりだ。
やがて、バブル状態が最高潮に達したとき、人々の恐怖から相場は暴落する。
世界恐慌を起こすには、バブル状態の過熱相場を作るだけでいいことになる。
バブル状態の過熱相場を作りさえすれば、後は人々の恐怖が勝手に相場を暴落させる。
ベイビーは、日本を含む十数カ国でワールド株式投資セミナーを開催している。
おそらく、各国のセミナー参加者に同じ内容の案内が届いているだろう。
どうすれば、恐るべきベイビーの計画を止めることができるんだ。
だめだ、いくら考えても、対抗策が思いつかない、21世紀少年は頭を抱えた。
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