第413話 難波の女帝(前編)
1960年(昭和35年)、大阪難波。
女の子が、近所の駄菓子屋にやってきた。
女の子は、両親から貰った小遣いを握りしめていた。
ところがその日に限って、欲しい駄菓子を買うには金が足りなかった。
「おばちゃん、これちょうだい」、女の子が駄菓子を指差す。
「ああ、この駄菓子なら5円や」、女性店主がいう。
「はい、お金」、女の子は女性店主に、3枚の1円硬貨を渡した。
「これだけしかないんか、全然、足りへんやないか」、女性店主が呆れていう。
「お金やで、売ってえな」、女の子がいう。
「ウチが年寄りやからって、バカにしてんのか」、女性店主が1円硬貨を返しながらいう。
「ウチ、このお菓子食べたいんや」、女の子がいう。
「足りへんもんは足りへんのや、欲しかったら金持ってくるんや」、女性店主が怒鳴った。
「な、なんで、怒んの、ウチこのお菓子が欲しいだけやんか」、女の子がいう。
「ええから、とっとと帰れ、貧乏人が」、女性店主が女の子の背中を押しながらいう。
女の子は駄菓子屋から追い出された。
くそばばあ、おぼえとけよ、駄菓子屋からの帰り道、女の子は思った。
3日後の午後、駄菓子屋に黒のスーツ姿の2人の男がやってきた。
2人の男は、狭い駄菓子屋の店内に入った。
「何の御用でっか」、女性店主が聞く。
2人の男は答えず、店内をくまなく見ていた。
店内をくまなく見た2人の男はうなずきあった。
1人の男が持っていたカバンから、契約書を取り出した。
男は女性店主に近づくと、契約書を差し出しながらいった。
「買取条件を確認したら、サインしてもらえるか」
「へっ、何の買取でっか」、女性店主が聞く。
「この店の買取だ」、契約書を差し出した男がいう。
「そ、そんなこといきなりいわれても、まだ売るつもりはありまへん」、女性店主がいう。
「売らなくてもかまわんが、仕入れはできないぞ」、契約書を差し出した男がいう。
「あ、あんたら、何もんでっか」、女性店主がいう。
「3日前、この店に来た女の子から依頼を受けた者だ」、契約書を差し出した男がいう。
「あ、あの女の子は何もんなんでっか」、女性店主が震えながらいう。
「淀屋二代目本家のヨドヤ タエ様だ」、契約書を差し出した男がいった。
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