第211話 日本一の株屋(中編)
その証券会社は、1925年(大正14年)に大阪府大阪市に設立された。
創業者の名は野村財閥二代目の野村徳七だった。
やがて、その証券会社は本社を東京に移転、日本一の株屋となった。
高い情報収集能力と「ノルマ証券」といわれるほどの営業力が武器だった。
その証券会社の大阪支店は、大阪市中央区の御堂筋沿いにあった。
そこには、次期社長候補との呼び声も高い支店長の男がいた。
その男は、高級ブランドの銀縁メガネをかけた細身の男だった。
年齢は30代と若いが、同期の中では一番の出世頭だった。
大阪支店のフロアでは、今日もいつもの光景が繰り広げられていた。
「はぁ、株を買うてくれへんやと、お前の仕事は株を買わすことやろが。
お前に自信がないから断られるんや、自信を持って勧めてこんかい」
支店長の男はデスクに座り、デスクの前に立つ部下を叱責していた。
「お前は何のために仕事しとるんや。
家族を養うためやろが、こんな仕事しとったら家族を養われへんやろが。
家族を養いたいんやったら、死ぬ気で仕事を取って来い」
支店長の男は言い放つと、部下を解放した。
肩を落とし、席へ戻る部下を見ながら、支店長の男は思った。
最近は、少し注意しただけで、やれパワハラだのと的外れなことをいいよる。
メンタルの弱い奴が多くなったのが原因やな。
支店長の男は、自分がパワハラをしていることに気づいていなかった。
そのとき、支店長の男のデスクの内線が鳴った。
「なんや」、次期社長候補の男が内線を取りいう。
「はぁ、来客やと、聞いてないぞ。誰や」
内線をかけてきた受付の女性社員は、ある名前を告げた。
「ホンマか、間違いないんか」、支店長の男が確認する。
受付の女性社員は、間違いないことを告げた。
「わかった、応接室に通しとけ。すぐに向かうさかい」
支店長の男はいうと、内線を終えた。
10分後、その証券会社の大阪支店の応接室。
淀屋初代本家13代目当主の男、淀屋はソファに座り、調度品を眺めていた。
エライ高そうな調度品ばかりやな。
さすが日本一の株屋の応接室やな、淀屋は不敵な笑みを浮かべた。
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