第203話 無敗の個人投資家たち(後編)
やがて、店内の客が少なくなった。
無敗のJ(ジャック)のテーブルに女性店主がやって来た。
「ひさしぶりね、さては何か悩みがあるのかな」
向かいのイスに座った女性店主が笑いながらたずねる。
「あのさ、ベイビーって、どういうイメージがある」、Jが聞く。
「ベイビーって、赤ちゃんのことよね。
母親にとっては24時間、目が離せない、大変だっていうイメージしかないわ。
育児ノイローゼって言葉もあるくらいだしね」、女性店主がいう。
「自分の子どもなのに、可愛くないのか」、Jが聞く。
「そりゃ可愛いわよ、でも可愛いと子育ては別よ。
そうそう、育児ノイローゼになる母親って、真面目な人が多いらしいわ。
理想の母親はこうあるべきだって、自分で自分を追い詰めてるのよ」、女性店主がいう。
「じゃあ、ベイビーにはどう接すればいいんだい」、Jが聞く。
「そうねえ、愛情を持ちながら、でも自分の感情には素直になって接することかな。
それより、ベイビーを作る予定でもあるのかしら」、女性店主が笑いながらいう。
「バカいえ、そこまで元気じゃないよ」、Jが笑いながらいった。
第二次世界大戦前、日本の国益を守るため、ある組織が誕生した。
組織はアジア各国を独立へと導き、終戦後は日本の経済発展に大いに貢献していた。
組織の一員である年齢不詳の男、JOKERは組織から指令を受けた。
BABYに関する情報を、国内の相場師に伝えろという指令だった。
JOKERはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を使うことにした。
近年では、各国の企業や政府機関など多々な分野においてSNSの利用が進んでいる。
「恐慌を起こしてきたBABYというAI(人工知能)が、活動を始めている」
JOKERが発信したBABYに関する情報は、静かに拡散していった。
JOKERがBABYに関する情報を発信してから1週間。
全国にいる94人の無敗の個人投資家は、全員がBABYに関する情報を入手していた。
94人の無敗の個人投資家は、全員、リーマンショックの暴落を経験していた。
また、その多くは専業の投資家ではなく兼業の投資家だった。
無敗の個人投資家たちの職業は様々だった。
ある者は公立中学の教員、ある者は自営業、ある者は中小企業の会社員など。
だが、リーマンショックの暴落を経験した彼らが思ったことは同じだった。
BABYよ、暴落させたければ、暴落させるがいい、また底で拾ってやるよ。
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