第210話 日本一の株屋(前編)
大阪難波のタワーマンションの1室。
淀屋は自宅の居間で、無敗のキングからのメールを読み返していた。
「恐慌を起こしてきたBABYというAI(人工知能)が活動を開始した。
BABYは、日本を含む十数カ国でワールド株式投資セミナーを開催しているらしい。
ワールド株式投資セミナーの開催目的は不明だ。
だが、奴が再び、恐慌を引き起こそうとしていることは間違いないだろう。
ワシは貴様に何かしてくれとはいわない。単なる情報提供だ」
最初に読んだとき、淀屋は、AI相手とはおもろいやんけ、と思った。
そやけど、ベイビーは日本を含む十数カ国でセミナーを展開しとる。
おそらく、ワテとは比べ物にならへん資金力のはずや。
この相場で、ワテだけが儲けるのは簡単や、いつも通りにやればええ。
でも、ホンマにそれでええんか、なんで無敗のキングはワテに情報提供したんや。
そのとき、淀屋のスマホが着信を知らせた。
かけてきた相手は、淀屋二代目本家当主、難波の女帝だった。
「ウチや、こないだ話したベイビーの正体がわかったから教えといたろ思てな。
ベイビーはコンピュータ、いやプログラムらしいわ」
「そやったんですか」、淀屋は知っていたが、とぼけていう。
「でな、プログラムなんかに負けられへんやんか」、難波の女帝がいう。
「そら、そうでんな、プログラムなんかに負けられへんわ」、淀屋がいう。
「ウチは決めた、ベイビーをやっつけたろってな」、難波の女帝がいう。
「どないして、やっつけますの」、淀屋がいう。
「それはこれからのお楽しみや、ただウチら二代目本家だけではムリや。
ある奴と一緒に戦うことにしたんや、これからの相場、おもろなるから見ときや。
同じ淀屋のアンタには教えとこ思うてな、ほな」、難波の女帝はいうと通話を終えた。
あいかわらず、いいたいことだけいうオバハンやな。
昔から、ワガママで自分勝手やから、しゃあないか。
ふと、淀屋は思った。
一緒に戦うある奴って誰や、難波の女帝が一緒に戦う奴、めっちゃ気になるやんけ。
そやけど、まっ、ええか、どうせ教えてもらえんやろしな。
しゃあないな、ワテも相場をおもろしたろか。
一緒に相場をおもろするなら、日本一の株屋のあの男しかおらへんな。
淀屋初代本家13代目当主の男は、不敵な笑みを浮かべた。
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