第209話 Interview with the stage actor(後編)
マンハッタンの高級ホテルの1室、テーブルを挟んで2人の男が椅子に座っていた。
ポロシャツ姿の若い男は、舞台俳優の男の話に聞き入っていた。
サングラスをかけた舞台俳優の男の話は臨場感に溢れていた。
まるで、当時の光景が目の前で繰り広げられているようだった。
ポロシャツ姿の若い男は思った。
あれ、目の前の舞台俳優のかけているサングラスが仮面に見えてきた。
仮面舞踏会で紳士や淑女がつけるような口元以外を隠す仮面に。
サングラスをかけた舞台俳優の男は、落ち着いた口調で話を続けた。
「前置きが長くなったので、そろそろ本題に入ろうか。
ブロードウェイで主演公演をするには、どうしたらいいと思う。
当たり前だが、努力や運だけでは、主演公演をすることはできない。
よく舞台俳優には演技力が必要だといわれている。
だが、演技力とは何なのか、そもそも演技力の定義は曖昧だ。
所詮、演技力とは、演出家や脚本家の主観にすぎないのだよ。
演出家や脚本家の主観にすぎないので、客観的な数値化などできる訳が無い。
無敗のキングがいったように、世の中の全ての価値観を決めるのは金だ。
私は相場で稼いだ金で、いくつかの大手企業の株主になった。
株主になったあと、私は今、主演している公演のオーディションに応募した。
応募した公演は、株主になっている大手企業が協賛している。
考えてもみたまえ、株主がオーディションに応募したら、誰が選ばれるのか」
「あ、あなたが主演に選ばれたのは、協賛企業の株主であることが理由なのですか」
我に返ったポロシャツ姿の若い男が驚いた表情でいう。
「そうだよ、価値観を決めるのは、演技力ではなく金だからな」
サングラスをかけた舞台俳優の男がいう。
「ブロードウェイの舞台に立つことを夢見て、頑張っている若者が大勢います。
彼らは少ない稼ぎの中、必死に稽古に励んでいるのですよ。
そ、そんな彼らに、あ、あなたは申し訳ないと思わないのですか」
ポロシャツ姿の若い男が、押さえ切れなくなった感情を露にしていう。
「さっきもいったが、全ての価値観を決めるのは金だ。
現に私が主演している公演は、日本人主演公演の最長記録を更新しているだろう。
そうそう、いうのが遅くなったが、私は君が勤めている出版社の株主なんだよ」
そういうと、サングラスをかけた舞台俳優の男は、凄みのある笑みを浮かべた。
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