第192話 Welcome to BABY WORLD(後編)
シカゴで最も高い超高層ビル、ウィリス・タワーの地下1階。
エレベーターの前に、白のスーツ姿の白人男性がいた。
白人男性は、部下の男たちが若い東洋人男性を連れてくるのを待っていた。
部下の男たちが店の中へ入って、かなりの時間が経っていた。
いくら、格闘技に秀でているボディガードがいても、2人ではどうしようもない。
部下の男たちの中には、軍の特殊部隊出身で戦場での実戦経験もある者もいる。
戦場での実戦経験は、スポーツの格闘技とは比べ物にならない。
そろそろ終わる頃だな、白のスーツ姿の白人男性は舌を出して赤い唇を舐めた。
店のドアが開き、部下の1人の男が出てきた。
出てきた男は前のめりになると、受け身をとることもなく通路に倒れこんだ。
続いてドアから出てきたのは、ボディガードの日系人男性カトウだった。
カトウに続いて、若い東洋人男性も出てきた。
カトウは、白のスーツ姿の白人男性を見据えるといった。
「Are you the next opponent?(次の相手はお前か)」
スーツ姿の白人男性は、振り返るとエレベーターのボタンを押した。
「Are you BABY?(お前がベイビーか)」、近づいてくるカトウの声が聞こえた。
エレベーターの到着を知らせる音が鳴った。
エレベーターのドアが開くと、中から大勢の中国人団体客が降りてきた。
「餐厅在哪里?(食堂はどこ?)」、「我很饿(腹ペコだ)」
「自助餐厅就在那里(食堂はすぐそこです)」、男性ガイドが叫びながら案内する。
中国人団体客が降りると、白のスーツ姿の白人男性はエレベーターに飛び乗った。
カトウと天使の笑顔をもつ男は、エレベーターへ向かって駆け出そうとした。
だが、前から来る中国人団体客に阻まれ、前へ進めなかった。
白のスーツ姿の白人男性を乗せたエレベーターのドアが閉まり始めた。
エレベーターの中から、白のスーツ姿の白人男性がカトウを指差した。
指差した手を自分の喉の前に持ってくると、指先を伸ばしナイフの形にした。
ドアが閉まる直前、白のスーツ姿の白人男性は喉の前の手を真横に引いた。
カトウと天使の笑顔をもつ男の前で、エレベーターのドアは閉じられた。
「振り出しに戻ったようだね」、天使の笑顔をもつ男がカトウにいう。
「ザンネンデス」、カトウが店の方向を振り向きながらいった。
中国人団体客が、通路に倒れている男にお構いなしに、さっきの店に入るのが見えた。
やがて、店内から、中国人団体客の驚く声が聞こえてきた。
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