2020年6月27日土曜日

銘柄を明かさない理由R338 最強のツーペア(後編)

第338話 最強のツーペア(後編)

南京路の沿線にある高級ホテルの最上階にあるラウンジ。
キサラギ ミレイは後ろ手に持ったボトルを劉宋明(りゅうそうめい)の頭の上で傾けた。
「いつものやつよ、私の大事な人に、よくもこんなことしてくれたわね」
キサラギ ミレイは、劉宋明を見ると、怒りに満ちた目でいった。

中国の武器である青龍刀を思わせる40代の男、劉宋明がキサラギ ミレイを見ていった。
「なるほどな、そういうことか、きさまら、グルだったんだな。
こんなことして、タダですむと思うなよ。
俺を誰だと思っているんだ、必ず、後悔させてやる」

皆が静まり返る中、アマネ オトヤが立ち上がり、左手で濡れた髪をかきあげた。
濡れた髪をかきあげたアマネ オトヤは、天使のような笑顔を浮かべた。
ラウンジの女性たちは、アマネ オトヤの天使のような笑顔に、一瞬で魅了された。
黒服のボーイも、思わず口を開けて、見とれてしまう笑顔だった。

アマネ オトヤが、天使のような笑顔を浮かべたまま、劉宋明にいう。
「あなたを誰だと思っているか、お答えしますね。
あなたは、香港の有名な資産家、張(チャン)家の1人息子ではありませんか」
劉宋明の顔色が変わった。

「あなたが、奥さんと娘さんに話した子どもの頃の話を聞きました。
貧しい生活の中、張家の1人息子に助けてもらったという話です。
最初にその話を聞いたとき、違和感を持ちました。
気になったので、あなたの話が本当なのか、調べさせてもらいました。

調べたところ、確かに、上海の貧民街に、貧しい兄妹と張家の1人息子がいました。
兄妹の妹だった春鈴(シュンリン)が、金と引き換えに売られたことも事実でした。
ところが、春鈴の兄は、不治の病のため、今はこの世にいないのです。
これが、あなたが貧しい兄妹の兄でなく、張家の1人息子だと思った理由です」

アマネ オトヤは、黙ったままの劉宋明から、キサラギ ミレイに視線を移すといった。
「さあ、お互いにバイトは終わりだ、帰るぞ、ミレイ」
呆気にとられる黒服のボーイや女性たちを残し、2人はラウンジを後にした。
宿泊先の高級ホテルへ歩いて帰りながら、キサラギ ミレイがアマネ オトヤに聞く。

「さすが、無敗のエースね、ところで奥さんからどうやって劉宋明の話を聞きだしたの」
アマネ オトヤが立ち止まり、笑顔が消えて真顔になった。
アマネ オトヤは、禁断の一線だけは越えていないと、必死に言い訳を始めた。
「言い訳する男は最低よ」、キサラギ ミレイは、アマネ オトヤを残して、歩き始めた。

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