第331話 聖杯のお告げ(中編)
聖遺物のひとつとされる、聖杯はいくつか存在する。
聖杯の1つは、エルサレム近くの教会にあったとされるものである。
7世紀、ガリアの僧がエルサレム近くの教会でそれを見て、触れたと証言している。
銀でできており、把っ手が2つ対向して付いていたというが、現在の所在は不明。
あと、3箇所にある杯も、聖杯だといわれている。
3箇所とは、ジェノヴァ大聖堂、バレンシア大聖堂、メトロポリタン美術館である。
これらの3箇所の中に、ケルン大聖堂は含まれていない。
だが、ケルン大聖堂には、エルサレム近くの教会にあったとされる杯があった。
ケルン大聖堂に聖杯が持ち込まれてから、聖杯を守る騎士団が誕生した。
「ケルンの騎士団」と名づけられた騎士団の使命は、命を賭して聖杯を守ることだった。
第二次世界大戦の最中、「ケルンの騎士団」は聖杯をスイスへ避難させた。
現在、ケルン大聖堂からスイスへ移された聖杯は、スプリングベルが所有していた。
かって、春鈴(シュンリン)という女の子が、近所の教会の老神父から聖杯を託された。
「ケルンの騎士団」だった老神父は、春鈴に聖杯を託した日に、自らの命を絶った。
以来、春鈴は、老神父から託された聖杯を、大事にしていた。
ある日の夜、ベッドで寝ようとしていた春鈴に声が聞こえた。
「敵を愛し、迫害するもののために祈れ」
えっ、誰かいるの、春鈴は起き上がったが、部屋には誰もいなかった。
「己を愛するごとく、汝の隣人を愛せよ」、春鈴に、再び、声が聞こえた。
聖杯の声だわ、春鈴は飾り棚にある銀色の聖杯を見ると確信した。
この夜から、春鈴は聖杯の声に従って生きてきた。
春鈴には、プライベートバンカーだった父親がいた。
父親が亡くなってから、春鈴は後を継ぎ、プライベートバンカーになった。
聖杯は、当時の名前であった春鈴を、スプリングベルに改名するよう告げた。
スイスで最も美しい教会があるといわれる街。
広大な敷地の中には豪邸があり、豪邸のすぐ近くには、教会が設けられていた。
教会ではステンドグラスから降り注ぐ朝日の中、スプリングベルが祈りを捧げていた。
スプリングベルが、祈りを捧げている聖母マリア像の中には、聖杯が格納されていた。
祈りを捧げていたスプリングベルは、聖杯からのお告げを受け取ると、豪邸へ向かった。
玄関の前には、数年前に採用された黒服を着た若い男性秘書のアレックスがいた。
「おはようございます、スプリングベル様、すでに朝食の準備は整っております」
スプリングベルは知らなかったが、アレックスは聖杯を守る「ケルンの騎士団」だった。
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