2020年6月19日金曜日

銘柄を明かさない理由R334 禁断の代償(中編)

第334話 禁断の代償(中編)

上海市の高級マンションの一室。
劉宋明(りゅうそうめい)の自宅では、夕食が始まっていた。
劉宋明と妻であるレナール、娘マチルダの家庭教師の男の3人だった。
娘マチルダの家庭教師の男は、アマネ オトヤという若い日本人だった。

「先生には、いつも娘がお世話になっており、感謝しています」
劉宋明がナイフとフォークを動かしながら、アマネ オトヤにいう。
「とんでもありません。娘さんからは教え方がよくないとお叱りを受けています」
アマネ オトヤは天使のような笑顔を浮かべると、劉宋明に答えた。

「先生の教え方がよくないとは、娘には私から注意しておきます」
劉宋明が料理を口に運びながら、アマネ オトヤを見ていう。
「そんな注意なんてしないでください、私の力不足です」
アマネ オトヤは天使のような笑顔を浮かべたまま、劉宋明に答えた。

「そうですか、先生がそう仰るのなら、注意しないことにします。
ところで、先生は上海のご出身でしょうか。
いつから、上海にいらっしゃるんでしょうか」
劉宋明が、ワイングラスを口元に運びながら、アマネ オトヤに尋ねる。

その瞬間、アマネ オトヤは、前にレナールから聞いたことを思い出した。
「結婚するまで、夫は私を愛してくれているから、優しいと思っていたの。
でも、結婚してから、彼の書斎に入って驚いたことがあるの。
彼の本棚は、膨大な数の深層心理学に関する本ばかりだった。

気になったので、深層心理学について調べたわ。
よくわからないけど、人間の行動の意味を解釈し、解明しようとする理論らしいわ。
それ以来、夫にとって、私はただの研究対象なのかもしれないと思ったの。
もちろん、私だけじゃなく、娘のマチルダもね」

アマネ オトヤは、包み隠さず、正直に答えることにした。
「上海出身ではなく、日本出身です。上海へきたのは、あることを調べるためです」
劉宋明は笑顔になると、手に持っていたワイングラスを、アマネ オトヤに近づけた。
劉宋明は、横に座るレナールを見ると、乾杯するよう促した。

レナールとアマネ オトヤがワイングラスを上げると、劉宋明がいった。
「ようこそ、上海へ」、3人は乾杯した。
劉宋明は、アマネ オトヤを見るレナールの表情や仕草から、あることを確信した。
確信したのは、アマネ オトヤとレナールが禁断の関係だということだった。

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