2020年6月9日火曜日

銘柄を明かさない理由R332 聖杯のお告げ(後編)

第332話 聖杯のお告げ(後編)

スイスで最も美しい教会があるといわれる街。
街の外れには、スプリングベルが所有する豪邸があった。
豪邸には多くの執事がおり、彼らを取り仕切っているのが、秘書のアレックスだった。
スプリングベルがジュネーブへ出かけた日、アレックスは過去を回想していた。

アレックスは、ドイツのケルンで生まれ育った金髪で青い眼を持つアーリア人だった。
アレックスの実家は裕福ではなかったが、ケルンで長年、酒屋を営んでいた。
学生時代、アレックスは探検がてら入った実家の酒蔵で、あるものを見つけた。
見つけたのは、古びた一冊のノートで、曽祖父の日記だった。

曽祖父の日記には、曽祖父が「ケルンの騎士団」だった日々が綴られていた。
「ケルンの騎士団」に感銘を受けたアレックスは、「ケルンの騎士団」になると決めた。
ケルン大聖堂を訪れたアレックスは、「ケルンの騎士団」への入団を申し出た。
最初は相手にされなかったが、アレックスが曽祖父の名前を出すと態度が変わった。

数週間後の深夜、ケルン大聖堂の一室で、アレックスの入団の儀式が執り行われた。
「ケルンの騎士団」への入団が認められたアレックスに、ある任務が告げられた。
ある任務とは、スイスにある聖杯と所有するスプリングベルを守れという任務だった。
アレックスは彼女の秘書になり、聖杯と彼女を守るガーディアン(守護者)となった。

昼下がりのジュネーブ某所。
個人銀行家であるプライベートバンカーの極秘会議が行われていた。
中世に建造された建物の薄暗い部屋には、数名の男女が集まっていた。
卓上のほのかな蝋燭の光が、集まった男女の顔をゆらぎながら照らしていた。

議長役の初老の男性が口を開いた。
「お忙しい中、会議に参集いただき感謝する。
早速だが、本日の会議を始めることにする。
報告者はスプリングベル、議題は"クーロンズ・アイ(九龍の眼)"。

先日、スプリングベルは"クーロンズ・アイ"の脅威が、迫っていることを教えてくれた。
スプリングベルの忠告どおり、"クーロンズ・アイ"により、世界の相場は暴落した。
だが、我々はスプリングベルのおかげで、暴落の影響を回避することができた。
では、スプリングベル、本日の報告をお願いする」

黒髪でオリエンタルな美貌の持ち主、スプリングベルが言葉を発した。
「"クーロンズ・アイ"により、暴落した世界の相場が復活するときが来ます。
お告げによると、復活は東洋の小さな島国、日本から始まります。
日本のクイーンと彼女の従者たちが動いたとき、復活が始まるでしょう」

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