2026年6月30日火曜日

【小説】神崎教授とAIの事件ファイル:EP64 午前零時のゲームオーバー

【AI(人工知能)による作品紹介】
人間とAIのバディに解けない謎はない。日本を襲うハッキングテロ。崩壊する医療、迫る停電のタイムリミット。未曾有の国家危機に立ち向かうのは、神崎教授と亡き妻の思考を学習したAIだった。緻密な伏線とハイスピードな展開で魅せる、新時代のサイバーミステリー!
【登場人物】
・神崎零壱(かんざきれいいち)
元東京中央技術大学 情報工学科の教授。日本の情報工学の第一人者で、インターネットの普及に貢献した。2020年に定年退職、現在は年金生活。子どもは独立、妻に先立たれてからは、東京都北区にある築40年以上の二階建て住宅で、妻の思考を学習させたAI(人工知能)と暮らしている。NCOによるコード名はM2。
・神崎悠季(かんざきゆき)
神崎零壱の妻で結婚してからは専業主婦だった。2015年にアルツハイマーを発症。東京中央技術大学病院のアルツハイマー新薬研究プロジェクトの治験に参加するが、治験途中に亡くなる。看護師が気づけなかった投薬装置の故障による過剰投薬が原因と推測されたが、因果関係は不明。
・AI(YUKI)
神崎零壱が神崎悠季の思考を学習させたAI。神崎零壱のことを誰よりも把握している。自宅にかかってきた電話に音声で対応、電話をかけることもできる。受信したメールに対する返信を作成して送信できるなどの機能も搭載している。
・御堂健伍(みどうけんご)
東京中央技術大学病院の病院長。元アルツハイマー新薬研究プロジェクトの責任者。神崎零壱に神崎悠季の治験への参加を勧めたことに責任を感じている。
・佐藤波流(さとうはる)
東京中央技術大学 情報工学科 2020年卒の神崎教授の教え子。警視庁 サイバー犯罪対策課。NCOによるコード名はK2。
・上条雷人(かみじょうらいと)
東京中央技術大学 情報工学科 2010年卒の神崎教授の教え子。元米国IT企業『ダーウィンスペース』日本法人の社員。「ダークマップ」管理人。サイバーテロを計画し実行する。
・華喜多美代子(はなきたみよこ)
元東京中央技術大学病院の看護師。神崎悠季を故意に死亡させたと、世間からバッシングされ、退職を余儀なくされる。上条雷人とは異父兄妹。
・雅(みやび)
東京中央技術大学 情報工学科 2010年卒の神崎教授の教え子。国家サイバー統括室(NCO)。本名は美矢部(みやべ)。
・佐倉井(さくらい)
東京中央技術大学 情報工学科 2010年卒の神崎教授の教え子。防衛省 情報本部 特殊情報分析室。NCOによるコード名はJ1。
・高柳(たかやなぎ)
副業でハッキングをしている会社員。遠隔監視操作プログラム『OmniSight(オムニサイト)』を開発した。NCOによるコード名はM1。
・鳩山(はとやま)
東京都の総務局 文書管理課の職員。NCOによるコード名はT1。
・沢渡(さわたり)
警察庁の警備局 公安警察。
・岩田(いわた)、川瀬(かわせ)、坂下(さかした)、山本(やまもと)
警視庁 サイバー犯罪対策課。
・木下剣次(きのしたけんじ)
ペガサス電子の社員。『ギルド』の潜伏員(スリーパー)。

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EP64  午前零時のゲームオーバー

東京都品川区。
上条はネットカフェ『アットスペース』から、防犯カメラの死角を歩いてきた。
あれにするか、上条が目をつけたのは桟橋に繋がれた小型のボートだった。
屋根はあるが周囲に壁やドアのないハードトップ付きオープンボート。

操縦席から後部デッキまで、コンソールカバー(船体カバー)で覆われている。
中を見せない防犯対策だが、中に入れば、絶好の隠れ家になる。
23時を過ぎた海面は干潮のため、満潮時より1.8メートルほど下がっている。
桟橋を歩いてきた上条はボートに飛び降りた。

鈍い音とFRPの床が軋む音がし、ボート全体が大きく揺れ、周囲の水面を波立たせた。
飛び降りた姿勢のまま、周囲の気配を伺ったが、気づかれたような気配はなかった。
操縦席の後部を覆うカバーの隙間を両手で広げると、カバーの下に潜り込んだ。
暗闇に目が慣れると、操縦席へ行き、ポケットからスマホを取り出し、座った。

外の音は聞こえるが、視界はカバーで遮断されている暗くて狭い空間。
閉所恐怖症の人は耐えられないだろうが、ハッカーには理想的な空間だった。
スマホの時刻を確認すると、23時20分になろうとしていた。
午前0時まで時間があるので、待ち伏せしていた刑事のことを調べることにした。

スマホの画面の中にある「MAC」のショートカットアイコンをクリックした。
立ち上がった画面で、偽のMACアドレスを作成、設定すると、画面を閉じた。
インターネットの設定画面を開くと、観光船のフリーWI-Fiに接続した。
多くの観光船はフリーWI-Fiを用意しており、夜間は陸から電気を引き込むので使用できた。

夜間、観光船が停泊している場所は、フリーWI-Fiに接続することができる穴場だった。
スマホの画面の、紫色のショートカットアイコンをクリックした。
「Tor」ブラウザの独特な玉ねぎマークのロゴが表示された。
「Torネットワークへの接続を確立しています…」、プログレスバーがじりじりと伸びる。

通常のブラウザなら、コンマ数秒で終わる工程だが、「Tor」は違う。
暗号化されたトンネルを世界中に掘り進めている。
「ガードノードの承認完了。ディレクトリスパイクを取得中……」
バーが右端まで到達し、「Tor」ブラウザが立ち上がった。

通信経路の設定画面を開き、。警視庁のサーバーまでのノードにするサーバーを設定した。
画面上には、世界地図を縫い合わせるように繋がった3つのIPアドレスが表示された。
警視庁サーバーのIPアドレスを入力し、「OK」をクリックした。
数分後、警視庁サーバーに接続すると、協力者に仕込ませていたオムニサイトを起動した。

オムニサイトを操作し、職員データベースにアクセスした。
顔認証照合に、ネットカフェの防犯カメラで撮影した刑事の画像を放り込んだ。
データベースとのマッチングが行われ、刑事の氏名、所属、経歴が表示された。
佐藤波流、警視庁 サイバー犯罪対策課、東京中央技術大学 情報工学科 2020年卒。

同じ大学の後輩じゃないか、2020年卒業なら神崎教授の最後の教え子か。
だから、待ち伏せできたのか、優秀な理由が理解できた。
待てよ、教え子が刑事なら、神崎教授が捜査に協力している可能性があるな。
上条は警視庁のシステムから出ると、東都電力のシステムに接続しようとした。

通信経路の設定画面を開き、。東都電力のサーバーまでのノードにするサーバーを設定した。
画面上には、世界地図を縫い合わせるように繋がった3つのIPアドレスが表示された。
東都電力サーバーのIPアドレスを入力し、「OK」をクリックした。
数分後、「Error 403: Forbidden / Network Unreachable」の文字が表示された。

電力会社の産業用制御システム(ICS)は、インターネットに接続していない。
インターネットに接続できるよう、協力者にオムニサイトを仕込んでもらった。
接続できないということは、オムニサイトを無効化したのか。
1週間…いや数日か…わずか数日で全てのオムニサイトを見つけ、無効化するとは…。

警視庁の基幹システムも、インターネットに接続していない。
インターネットに接続できるよう、協力者にオムニサイトを仕込んでもらった。
接続できたということは、オムニサイトは無効化されていない。
つまり、電力会社に仕込んだオムニサイトだけを無効化していることになる。

無効化した方法はわからないが、見事だ。
こんな芸当ができるのは、日本では神崎教授、同期の佐倉井、あと美矢部くらいか。
オムニサイトを無効化された上条が感じていたのは、敗北感ではなかった。
自らの能力の全てを使い、戦った後の、達成感だった。

午前0時になっても、都内の停電は起きなかった。
都内では、天王洲アイルを中心に、夜通し捜査が行われた。
観光船のWI-Fiルーターのログから、上条の発信場所を特定したのは、昼過ぎだった。
公安の実働部隊が品川浦のボートに向かったが、上条の姿はなかった。
【MACアドレス(Media Access Control address)】
ネットワーク機器それぞれに製造段階で割り当てられる装置固有の 12 桁の識別番号。OSによって「物理アドレス」、「Wi-Fiアドレス」と表示される。MACアドレスが重複することはないが、MACアドレスを変更するソフトウェアなどもあり、意図的に変更した場合は重複することがある。
【Tor(The Onion Router)】
通信経路を暗号化・多段中継して匿名性を確保する、フリーかつオープンソースの通信技術。IPアドレスなどの痕跡を隠してWeb閲覧や通信が可能になり、通常アクセスできない「.onion」サイト(ダークウェブ)の利用にも使用できる。通信は世界中のノードを経由するため、速度は遅くなる。
【ノード(Node)】
「結び目」「節」「中心点」を意味し、IT・ネットワーク分野では、コンピュータ、サーバー、ルーター、スマホなど、ネットワークに接続された個々の機器やプログラム。ネットワークを構成する「点」であり、線(リンク/エッジ)で結ばれて通信を行う。

※本作に登場する手法は防犯上の観点から一部改変しています。

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