第246話 相場の世界を駆け抜けろ(前編)
平日の昼、大阪市中央区の御堂筋沿いにある証券会社の大阪支店。
大阪支店の通用口から、1人の男が出てきた。
出てきた男は取締役兼大阪支店長の男、村野だった。
しばらく、大阪の街ともお別れやな、馴染みの店に挨拶がてら顔をだすか。
今朝、村野を東京本社へ異動する辞令が出た。
実質、最高経営者である村野が、代表執行役社長グループCEOになる辞令だった。
先日の「ブラックフライデー」で、東京証券取引所だけが暴落せえへんかった。
金融庁は、東京証券取引所だけが暴落しなかった理由を調べた。
その結果、ワテが国内の証券会社を率いて、買い向かったことが知られてしもうた。
金融庁は、ワテに代表執行役社長グループCEOに就任せえといいよった。
実質、最高経営者なんで、肩書きなんてどうでもええんやけどな。
まっ、ええか、勤め先が変わるだけや、村野は馴染みの店に向かった。
御堂筋の一本奥にある、ひなびた定食屋が村野の馴染みの店だった。
馴染みの店は、昭和の雰囲気を漂わせるひなびた店で賑わっていた。
のれんをくぐった村野に、店の高齢の店主が厨房から「いつものか」という。
「いつものや」、村野は答えてイスに座った。
しばらくすると、高齢の店主が料理を運んできた。
「お待たせ、いつもの煮魚定食やで」
「おおきに、ワテはここの煮魚が大好物やねん、おっちゃんの煮魚は最高やで」
村野は箸を取り、煮魚定食を美味そうに食べ始めた。
食べ終わった村野がいう。
「勘定や。美味かったで。やっぱ、ここの煮魚定食は最高やな」
厨房から出てきた高齢の店主がいう。
「いつもおおきに、お代はお連れの人から戴きましたよって」
「はぁ、連れ、連れなんかおらへんかったやろ」
村野が不思議そうにいう。
「遅れて後ろの席に座っていたスタジャンのあんちゃんが払ってくれましたよって。
一万円で釣りはいらんって、気前のええあんちゃんやったわ」、高齢の店主がいう。
「そのあんちゃんのスタジャン、ボロやったか」、村野が高齢の店主に聞く。
「そういやボロやったな、最初は貧乏かいなと思うたわ」、高齢の店主が村野にいう。
「そっか、またな、おっちゃん」、村野は高齢の店主にいうと、定食屋を出た。
どうやら、淀屋に借りができたようやな、村野は大阪支店へ向かって歩き始めた。
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