第256話 いつか必ず天下を(中編)
1914年8月1日、ドイツがロシアに宣戦、英仏が参戦、第一次世界大戦が始まった。
同年8月15日、日本は日英同盟の関係から、第一次世界大戦に参戦した。
日本軍はドイツ軍が駐留する青島攻略のため、軍事行動を開始した。
大連へ集結した日本軍は、山東半島へ軍艦で進撃を始めた。
「こいつだ」、6月に大連港に降り立った男は決断した。
欧州が戦場となっている今、日本軍の御用商人になるしかない。
男は世話になっていた大連の洋服生地問屋に事情を話した。
「軍隊相手に商売するなどとんでもない」、洋服生地問屋の主人は反対した。
主人から何度も引き止められたが、男の決意は変わらなかった。
主人からの餞別を手に、男は日本軍の後を追って、山東半島へ渡った。
当時、男は十六歳の少年で、日本軍の御用商人になれるはずがなかった。
だが、男は諦めず、日本軍の後を追ったのである。
男は山東半島に集結していた日本軍に頼み込んだ。
「なんでもいい、何か商売をさせてくれ」
頼む男に、日本軍はいった。
「ここは戦場だぞ。子どもがうろつくところではない。早く内地へ帰れ」
そのうち、日本軍は250キロ離れた青島へ移動してしまった。
このまま、ここにいては乗垂れ死ぬだけだ。
日本軍に追いつかなければ死ぬ。
男は250キロもの距離を、徒歩で行くことにした。
男は村落の無い山の中を、たった一人で歩き続けた。
人間の味を知っている野犬を撃退し、中国人の畑から食物を盗み、飢えを凌いだ。
青島へ着くまでの5日くらいは、這うようにして歩き続けた。
日の丸の旗がはためく村落の入口で、男は意識を失い、倒れこんでしまった。
気がつくと、家の中に寝かされ、数名の兵隊が男を取り囲んでいた。
助かった、と思うと、再び、男は意識を失った。
二度目に気づいたときは、医務室のベッドの上だった。
回復すると、男の身柄はすぐに憲兵隊に引き渡された。
男は憲兵隊に厳しい取調べを受けた。
「お前のような奴が大陸を放浪して、匪賊の仲間入りをするんだ。
今度、軍用船が来たら内地へ送り返す、それまで炊事場で働け」
男は仕事をもらえたが、軍用船が来れば内地へ強制送還されることになった。
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