第254話 プライベートバンカー(後編)
プライベートバンカー(Private Banker)という職種がある。
個人またはパートナーシップ等の形態で、銀行を所有し、経営する個人銀行家である。
法人格での銀行経営者の事を「プライベートバンカー」と呼んではいけない。
自称プライベートバンクも、スイス銀行法上のプライベートバンカーにあたらない。(wikipediaより)
春鈴(シュンリン)の父親は、プライベートバンカーで、キリスト教徒でもあった。
春鈴が持ち帰った古びた銀の把っ手が2つついたカップ。
一目見た春鈴の父親は、そのカップが聖遺物である聖杯の特徴を備えていると思った。
春鈴からカップを預った父親は、カップを科学鑑定に出すことにした。
カップを科学鑑定に出してから数週間後、春鈴の自宅。
帰宅した父親が、母親に背広を預けながらいう。
「科学鑑定の結果が出たよ」
「結果はどうでした」、母親がいう。
「聖杯である可能性が、限りなく高いそうだ」、父親がいう。
「そう」、母親はいうと背広をハンガーにかけ始めた。
「春鈴の様子はどうだ」、父親が母親に聞く。
「神父さんが亡くなったショックが、まだ残っているみたい」、母親がいう。
「多感な時期だから、しかたあるまい。
聖杯は、春鈴が神父からいただいたものだ。
お前から春鈴に返しておいてくれないか」、父親が母親に聖杯を差し出していう。
「わかりました」、母親は聖杯を受け取るといった。
十数年後、春鈴の父親はスイスで屈指のプライベートバンカーとなっていた。
徹底した顧客情報の守秘と着実な資産運用は、多くの顧客を獲得していた。
各国の芸能人、プロアスリートをはじめ、顧客の中には各国政財界の要人もいた。
だが、積極的に支店等を展開することなく、その拠点はスイスのみだった。
数年後、高齢だった春鈴の母親が亡くなり、やはり高齢だった父親が体調を崩した。
父親は、秘書として業務に従事してきた春鈴に後を託すことにした。
病床で父親は春鈴に「後はお前に任せた、よろしく頼む」と告げた。
「後は任せて」、黒髪でオリエンタルな美貌の持ち主となった春鈴は答えた。
「ありがとう、春鈴」、父親はいうと安心したのか目を閉じた。
数日後、父親は亡くなり、春鈴が正式に後を継ぐことになった。
跡を継いだ春鈴は、”春鈴”から"スプリングベル"に改名した。
後に伝説となるプライベートバンカー"スプリングベル"が誕生した瞬間だった。
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