2022年2月3日木曜日

銘柄を明かさない理由R445 先手必勝(後編)

第445話 先手必勝(後編)

ヨドヤコウヘイが本間宗矩を訪れる日の朝。
兜町に「無敗のキング」ことジツオウジコウゾウが会長の証券会社があった。
証券会社の自社資産運用部署は「アルカディア(理想郷)」と呼ばれていた。
平時の「アルカディア」は女性社員2名体制だった。

1人は、「アルカディア」責任者のクジョウレイコ、通称「無敗のクイーン」。
1人は、無敗の天然ことテンマリナ、通称「無敗のテン」だった。
クジョウがシステムの稼働状況を確認していると、ドアが開く音がした。
クジョウが見ると、いつもは始業時間の直前にしか来ないテンマがいた。

「おはよう、今日は早いな」、クジョウがいうと、テンマはうつむいて泣き始めた。
「どうした、何があったんだ」、クジョウはテンマに駆け寄った。
クジョウは泣きやまないテンマを、落ち着かせるために椅子に座らせた。
「泣いている理由を話せ」、クジョウが優しい声でいうと、テンマが話し始めた。

テンマが話し始めてから、30分が経とうとしていた。
「いろいろあったけど、昨日はヨドヤさんと付き合い始めた記念日だったんです。
記念日だったので、思い出の場所巡りしてたんです。
けど、全然、楽しそうじゃなくて・・・」、テンマがいう。

2人の出会いから始まった話も、ようやく本題だな、クジョウは思った。
「楽しそうじゃない理由を聞いたら、もう会えないかもしれないって」、テンマがいう。
別れ話を切り出されたのか、クジョウは思った。
「会えない理由を聞いたら、山形の本間って人に会うからって」、テンマがいう。

「なぜ、本間って人に会ったら、会えなくなるんだ」、クジョウが優しい声でいう。
「会ったら、何をされるか、わからないからって」、テンマがいう。
「本間って奴と会うのは、いつだ」、クジョウの声から優しさが消えた。
「今日の午後だって、いってました」、テンマがいう。

クジョウは自席に駆け寄ると、内線を手に取り、社長室秘書が出るといった。
「私だ、急用で外出するので、今日の会長からのヒアリングは欠席する。
あと、テンマも一緒なので、アルカディアは休みにする。
もし急ぎの用件があれば、私の携帯へ連絡するように」

「本間って奴と、どこで会うのかわかるか」、内線を終えたクジョウがテンマにいう。
「わかります、ヨドヤさんの身の回りの物にGPS発信器をつけています」、テンマがいう。
「さすがに抜かりはないな、行こうか」、クジョウが優雅な笑みを浮かべていう。
「はい、リーダー」、テンマが今日、初めての笑顔で答えた。

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