2020年7月18日土曜日

銘柄を明かさない理由R343 出資者の正体(後編)

第343話 出資者の正体(後編)

「りゅうそうめい?、何者ですか」、ジョウシマが内海に尋ねる。
「知らないのも無理はない、劉は東南アジアの金融施策に多大なる影響力を持つ男だ。
また、東南アジア以外の国とも、独自のネットワークを築いているらしい。
劉のネットワークは、"クーロンズ・アイ(九龍の眼)"と呼ばれている」、内海がいう。

「劉宋明が、暴落を引き起こした目的は何なんですか」、ジョウシマが内海に尋ねる。
「奴は暴落に乗じて、空売りを行い、その後、底値で買い戻したらしい。
おそらく、今回の暴落相場で、奴は巨額の利益を得たはずだ」、内海がいう。
「そのために相場操縦をしたのですか、違法行為ですよね」、ジョウシマがいう。

「ああ、事実なら確かに違法行為だ。だが証拠が掴めていない。
劉が、ニックにどのように売りを指示したのかなど、不明なことが多い」、内海がいう。
「なるほど、今日の本題はそれですね。
劉が、ニックにどのように売りを指示したのか調べろ、ですね」、ジョウシマがいう。

「いつもながら、察しがいいな、よろしく頼む」、内海がいう。
「して、成功報酬は」、ジョウシマが内海に尋ねる。
「融資の上限額を、現在の倍にしよう」、内海がいう。
「ば、倍ということは、億ですか」、ジョウシマが驚いて内海に尋ねる。

「ああ、億だが、足りないなら、更に倍の4倍にしようか」、内海がいう。
「いえ、倍で結構です」、ジョウシマが内海にいう。
「遠慮するなよ。足りないなら、いつでもいってくれ」、内海が涼しい顔でいう。
「劉宋明を潰すんですね、それは日本一の株屋の決定ですか」、ジョウシマがたずねる。

「いや、君が知っている私が本当に属する組織の決定だ」、内海が涼しい顔でいう。
「ま、まさか、あの組織の決定なんですか」、ジョウシマが驚いていう。
「さあ、駅に着いた。ここでお別れだ、吉報を待っている」
内海はジョウシマにいうと、ジョウシマを残し、駅への地下階段を下りていった。

ジョウシマが内海のことを知ったのは、数年前のある調査だった。
外資系保険会社から、日本一の株屋のチーフトレーダー、内海の調査依頼があった。
調査を行ったジョウシマは、内海の正体を知ることになった。
ジョウシマに正体を知られた内海は、ジョウシマにある提案を持ちかけてきた。

外資系保険会社を欺き、内海が属する組織への協力要請だった。
内海が属する組織の強大さを知ったジョウシマに、選択の余地はなかった。
駅への地下階段を下りていく内海を見送りながら、ジョウシマは思った。
日本の証券界は、本気で劉宋明を潰すんですね、内海さん。

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