相場には、「仕手」と呼ばれる人々がいる。
短期的に大きな利益を得るため、大量の資金で投機的売買を行う者をいう。
「仕手」の手口は、証券取引等監視委員会の取り締まり対象となっている。
だが、ネット売買が主流の現在では「仕手」と気づかない売買も多い。
その株の出来高は、徐々に増えつつあった。
その株の不自然な動きに最初に気づいたのは、業界でも数人だった。
何だ、この急増している出来高は、今までの10倍、いや20倍近い出来高だ。
誰が何の目的で、これだけの売り買いをしているんだ。
ある証券会社の資産運用を担当する部署、通称アルカディアはバトルモードに入っていた。
「オートログイン完了、シンプルプラン発動」、インカムから電子音声が聴こえた。
架空の個人投資家の取引口座へのログインが完了した。
「不正ログイン感知」、無敗のクイーンは銘柄コードを入力、ENTERキーを叩いた。
取引画面には、自動的にいくつかの買い注文と売り注文が浮かび上がる。
ほどなく、いくつかの買い注文と売り注文が現れた。
現れた買い注文と売り注文の内容から、自動的にシステムが指値と数量を変更する。
現れた買い注文と売り注文は、指値を変更した。
まだ気づいていないとは愚かだな、無敗のクイーンは思った。
無敗のクイーンが、情報システムの男に頼んだシステムには最優先の条件があった。
最優先の条件とは、決して約定させないことだった。
買いたくても買わせない、売りたくても売らせないというシステムだった。
システムには、過去の株価の値動きを元にしたアルゴリズムが組み込んであった。
買い注文と売り注文の状況から、瞬時に約定できない注文に自動で変更する。
買わせず売らせないことで、株価操縦に予定以上の資金を使わせる。
無敗のクイーンは、不敵な笑みを浮かべながら思った。
過去の仕手戦では、買い方と売り方に別れて争ったと聞く。
いずれの敗因も資金不足であることは、歴史が証明している。
ならば、資金を使わせて、相手を消耗させることこそが勝利への道だ。
貴様たちの相手をするのは、私1人で十分だ、約定させたければしてみるがいい。
小柄な小動物を連想させる女性社員が、インカムの通話スイッチを入れた。
「皆さん、ようやく春ですね。
やっかいな人たちのお相手は、私たちのリーダーが引き受けてくれています。
リーダーに感謝して、私たちは相場の春を楽しみましょうね」
